カレッジマネジメント219号
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57リクルート カレッジマネジメント219 / Nov. - Dec. 2019リーダーに求められるものも時代の変遷や状況の変化に応じ、異なることを理解しておく必要がある。状況が異なると、必要とされるリーダーシップの形が違ってくることを指摘し、「EQリーダーシップ」を提唱したダニエル・ゴールマンは、個人の能力を「仕事の技術」、「知的能力」、心の知能指数(emotional intelligence)と呼ばれる「EQに当たる能力」の3つにカテゴリー分けして、業績との関係を分析。「経営幹部の場合、地位が高くなるほど、EQが優れたリーダーシップを決定付けていた」との結果を明らかにしている。職場におけるEQの5つの因子とされるものは、自己認識、自己統制、モチベーション、共感、ソーシャルスキルである(詳細は上表参照)。以前の連載(本誌第216号、2019年5月)で紹介した「自己変容型知性」と重なる部分も多い。自己を客観視し、不完全さを認識しながら、自身をコントロールする能力が、上位役職になればなるほど求められるとの指摘は重要である。社会や市場からの評価が高い社長が率いる会社の社内がさほど活性化されてなく、社員の満足度も高くないというケースは決して少なくない。同様に、様々な取り組みを展開し、学長の評価が高い大学でも、組織の活性度が低かったり、構成員が閉塞感を感じていたりする場合もあるだろう。学長は任期中にアピールできる実績を残そうと意気込み、学部長は2年か4年の任期を大過なく過ごそうとし、教員はできれば静かに研究と教育に専念したいと考える。全てがこの通りではなかろうが、大学という組織の特質や個々の大学の状況を踏まえながら、大学にふさわしいガバナンスとマネジメントを確立し、それぞれの状況に応じたリーダーシップの在り方を追求していくことが重要である。とりわけトップのみならず、それぞれの立場でリーダーシップを発揮できる人材をどれだけ育てることができるのか。学生教育にとどまらない大学の真の人材育成能力が試されている。【参照文献】・ジョン P.コッター(黒田由貴子、有賀裕子訳)『リーダーシップ論』ダイヤモンド社、2012・ウォレン・ベニス(伊東奈美子訳)『リーダーになる[増補改訂版]』海と月社、2008・スティーブン P.ロビンス(高木晴夫訳)『新版組織行動のマネジメント』ダイヤモンド社、2009・デボラ・アンコーナ、 トーマス W.マローン、 ワンダ J.オーリコフスキー、 ピーター M.センゲ「完全なるリーダーはいらない」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2007年9月号・ダニエル・ゴールマン「心の知能指数『EQ』のトレーニング法」『EQを鍛える』ダイヤモンド社、2005Daniel Goleman, “What Makes a Leader” Harvard Business Review, June 1996.(邦訳「心の知能指数『EQ』のトレーニング法」『EQを鍛える』ダイヤモンド社、2005年に収録)より職場におけるEQの5つの因子定義特性自己認識●自分の気分、感情、欲動と、これらが他者に与える影響を認識し、理解する能力●自信がある●現実的な自己評価ができる●自分を笑い飛ばすことのできるユーモアがある自己統制●破壊的な衝動や気分をコントロールする、あるいは方向転換する能力●行動する前に考えるため、慎重に判断する性向●信頼できる、一貫性がある●不確実なことにも対応できる●変化に対して柔軟モチベーション(動機付け)●金銭や地域以上の何かを目的に、仕事をしようとする情熱●精力的に粘り強く目標に到達しようとする性向●強い達成意欲がある●失敗に直面した時にも楽観的でいられる共感●他者の感情の構造を理解する能力●他者の感情的な反応を受けて他者に対処する技能●優れた人材を育て、つなぎとめておける●異文化に対して配慮がある●顧客へのサービス精神があるソーシャルスキル●人間関係のマネジメントとネットワーク構築に長けていること●合意点を見出し、調和を築く能力●変化をリードできる●説得力がある●チームを構築し、引っ張っていける
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