カレッジマネジメント220号
2/66

技術革新により、産業構造や働き方が劇的に変化することが予想されます。本連載では、領域×Technology=「X Tech(クロス・テック)」に着目し、産業の大きな変化の兆しを捉えていきます。中田雄介氏 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 公共経営・地域政策部 副主任研究員取材協力現在、導入あるいは導入検討が進められている取り組み例AI/IoT/ロボットを活用した新たな栽培・収穫・管理(プレシジョンアグリカルチャー*)異物混入の防止・検出、生産能力の向上や人手不足対策のための、食品工場の生産ライン(盛り付け等)の自動化・省人化小売店・飲食店からの宅配サービス生産者と消費者のマッチングによる廃棄物の削減飲食店やレシピ等のガイド・レビューサイト冷蔵庫や調理機器のIoT化(スマートホーム、スマート家電を通じた飲食・調理関連データの取得・利活用ビジネス)2050年までの実現が期待される科学技術トピック例■生産場所から消費場所への距離を短縮し、機械自動化による大量生産を実現する 製造・加工・調理技術 ■廃棄食品再利用による新規資源精製技術(3Dフードプリンター等)■世界の様々な環境に適応した野生種のゲノム編集による栽培作物化(ネオドメスティケーション)■宇宙や極地利用を目指した自動化・無人化循環型植物工場■昆虫資源を含む新規タンパク源の製造加工技術■「おいしさ」を簡便に再現するための、味覚・香り・食感を考慮した認知科学・言語学・科学・AI等、分野横断的なアプローチによる研究成果の国際的なデータベース化出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング•図下段の「2050年までの実現が期待される科学技術トピック例」の掲載内容は、文部科学省文部科学省科学技術・学術政策研究所 重茂浩美、蒲生秀典、小柴等(2019)「第11回科学技術予測調査[3-1] 未来につなぐクローズアップ科学技術領域-AI関連技術とエキスパートジャッジの組み合わせによる抽出の試み-」の掲載内容のうち、同研究所が科学技術予測調査の一環として2018~2019年に実施したデルファイ調査で選定した702の科学技術トピックから、本件に関連すると考えられる事項を抜粋。*注1)プレシジョンアグリカルチャー(精密農業) 農地・農作物の状態を観察・制御し、農作物の収量及び品質の向上を図るための農業管理手法 注2)図中の情報は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)へのインタビュー内容をもとにリクルート『カレッジマネジメント』編集部が作成生産加工流通消費#05 FoodTech(食×テクノロジー)“食”の新しい価値を考え、テクノロジーと未来を共創するで変わる産業「食」の領域は広い。この生きるうえで欠かせない「食」に対し、先端技術を通じて課題解決し、改革を起こしつつあるのが、FoodTech(食×テクノロジー)だ。生産領域ではAI/IoT/ロボットの活用、加工領域では生産ラインの自動化・省人化、流通領域では宅配サービスや廃棄物の削減、消費領域ではレシピサイトやレストランガイド、スマート家電等が、現在導入あるいは導入検討が進められている。 FoodTechの注目トピックとして三菱UFJリサーチ&コンサルティングの中田雄介氏が挙げたのは、IoT連携で食材の在庫やレシピを教えてくれる冷蔵庫や、レシピをカスタマイズできる調理機器等のスマート家電だ。 「いつ・誰が・どんな頻度で・何を買って調理したかといった情報が機器を通じて収集され、クラウド上に蓄積して利活用する取り組みも進行中。食材の在庫管理だけではなく、 ヘルスケアや食材のデリバリー等、新たなサービスやビジネスにつながる可能性も高まっています」(中田氏)。テクノロジーの変化が押し寄せる「食」領域では、大学や国の研究機関、民間企業が一体となり、私達の食生活の課題を解決し、その新たな価値と利便性をどう啓蒙していけるかを議論しているという。 「レシピ・宅配・レストラン予約等のサービスを提供するスタートアップ、スマート家電や調理ロボット等を開発するメーカー、食材のバイオサイエンス、ヘルスケア関連や高齢者向けの食事や介護サービス等、様々な分野で新たな挑戦が行われています」(中田氏)。AIの知識を持つデータサイエンティストやソフトウエアエンジニア、ロボット工学やメカトロニクスエンジニア、生物学や栄養学、医学等の研究者・専門家、ユーザーニーズを探るマーケッター。スマート家電や調理ロボットの流通が本格化してくれば、それに合わせた住宅や店舗設計を行う建築家等も活躍の場が広がるし、全体のグランドデザインを設計する経営学も求められる。さらに中田氏が強調するのは、個人の嗜好・行動に合わせた「食」サービスを創る人材の必要性だ。「FoodTechによって、食のサービスは単に利便性を高めるだけではなく、個人の好みやニーズに合わせたオーダーメイドという観点が重要視されています。例えば、おいしいと感じたデータを取り、脳科学的に数値化して好みのレシピを作成したり、子どものお誕生日に3Dフードプリンターで恐竜ハンバーグを作るといったこと。既存・新規の学問分野が寄り添い、融合することによって新たな価値が生まれます」(中田氏)。異なる学問分野の融合や学際的な領域にこそ、新たなマーケットがある。そこに好奇心を向けられる人材こそ、食の未来には欠かせないようだ。(文・馬場 美由紀)

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る