カレッジマネジメント220号
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25リクルート カレッジマネジメント220 / Jan. - Feb. 2020うまく取り入れることを考えなければならない。一方で、建学の精神を分かりやすく示すために浄土真宗の教えのどの部分に焦点を当てるのかについては、以前から学内でも様々な考えがあったという。例えば、現在の第5次長期計画では、建学の精神(浄土真宗の精神)に基づいて、すべての「いのち」が平等に生かされる「共生(ともいき)」を、大学の理念として示している。また、2019年の創立380周年記念に当たって、入澤学長は、行動哲学として「自省利他」というコンセプトを示した。これは、現在の社会では、自分が正しいということが、自己中心性となって様々な問題を起こしていることから、仏教の教えの中にある利他の精神を示したものである。このように、建学の理念である浄土真宗の精神の表現の仕方は一つではなく、広がりがあるのである。そして、その表現のあり方には批判的な意見を含め、学内に様々な意見もあるという。このような中で、基本構想400では、建学の精神から「まごころ~Magokoro~」を基本理念に位置付けた。これは、入澤学長が、国連が2015年に「持続可能な開発のための2030アジェンダ」として採択した、地球上の誰一人として取り残さないとして示した方針であるSDGsは、仏教の精神に通じるものとして注目し、そのことを、入澤学長が理事長を務める浄土真宗本願寺派の宗門関係学校で構成される龍谷総合学園(24学園70校が参加)の取り組みとして「仏教×SDGs 〜まごころある国際人の育成」をコンセプトとして示したことが背景にある。龍谷大学の基本構想400策定の中で、タスクフォースがこの「まごころ」というコンセプトを取り入れて、「まごころ」ある市民育成を理念として示すとともに、2039年の将来ビジョンとして世界に発信することからローマ字での表記を加えた。このように建学の精神をどのように表現するかについても、若手教職員の中で議論が行われたのである。しかし、「まごころ」をローマ字にしていることに対して、教職員のワークショップでは抵抗感も示されるなど、様々な意見があったという。建学の精神ですら、与えられるものではなく、議論をして深めていこうとする対話がなされてきたのである。長期計画の策定は、その内容だけでなく、建学の精神に向き合う機会にもなっているのである。このような長期計画の効果は、計画を作成して大学の方向性を示すだけでなく、作成するプロセスでの成果も感じられている。入澤学長は、「若手教職員が本気で取り組んでくれて、それが周囲に良い影響をもたらした。自分達の大学のことだから自分達で考える、自分ごととして大学のあり方を考えてくれた」と話す。大規模総合大学で一つの方向性を示すことは簡単なことではない。龍谷大学では、長期計画の策定に当たって、教授会や評議会や様々な会議体、また、教職員や学生によるワークショップ等の様々な機会を設定して、意見を取り入れながら丁寧に進めてきた。基本構想400のグランドデザインの策定に際しては、最高意思決定機関である評議会で7回の議論を行ったという。若手教職員だけでなく、意思決定に責任のある役職者にも自分達の大学の将来に対して本気の議論が行われたのである。龍谷大学の新しい長期計画の策定は、文字通り全学的な議論のなかで作られていったものである。それは、大学のあり方を多くの時間と労力を費やして考えることでもある。「全員参加」や「大学全体で」、と言うことは簡単である。しかし、実際に大学運営に責任ある役職者だけでなく、若手教職員、幅広い教職員、学生が、大学のこれからのあり方を、建学の精神から具体的な改善課題まで広く議論し、自分ごとと捉えている大学はどのくらいあるだろうか。龍谷大学が創立400周年という将来目標に向けて、全学を挙げて大学のあり方を新たに定め、発展に向けた方向性を示していくプロセスからは、大学とは何かを考えさせられる。そして、龍谷大学のこのような取り組みは、大学に関わる学生や教職員が、自分達の大学を作っていくモデルケースとして、多くの大学でお手本とすることができるのではないだろうか。(白川優治 千葉大学国際教養学部准教授)図3特集 中期計画で実現する大学の未来「まごころ〜Magokoro〜」を基本理念に位置づけ計画策定のプロセスから生まれた効果
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