カレッジマネジメント220号
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26私立学校法の改正により、2020年4月より私立大学も中期計画の策定が義務付けられた。ガバナンスを強化し、教育の質の向上を図ることが狙いである。文部科学省によれば、中期計画を策定している私立大学法人は60%程度であり、国立大学が法人化とともに中期目標・計画を策定するようになったこととは大きな違いがある。他方で、安定的な経営を目指して早くから中期計画を策定している大学もあり、私立大学間の濃淡も大きい。本稿では、既に2015年から5年ごとの中長期計画を策定し、この計画のもとに教育・研究・社会貢献活動に邁進している国士舘大学の事例から、中期計画の策定に関するヒントを探ることにしよう。国士舘大学は、2017年に創立100周年を迎えた。この喜ばしい節目と裏腹に、翌18年からは18歳人口の長期低減が始まる。こうしたなか、国士舘大学として、どのような社会的使命のもと、どのような社会的ニーズに応えて、100周年後を生きていくか、それを考えることが、2015年-2019年の第1次中長期事業計画の策定の背景にあった。学納金に依存した経営を余儀なくされる私立大学である以上、18歳人口減少の影響を最小限に食い止め、長期的に安定した財務体制を構築せねばならない。社会的使命を確定すること、財務状況の中長期の見通しをつけること、この2つが最も大きな課題であった。社会的使命に関しては、建学の精神に立ち返ることで学内の意志統一を図った。国士舘大学は、第1次世界大戦後の社会問題・社会不安の解決に尽力する「国士」の養成を目的として設立された。この建学の理念を現代的に解釈すれば、「世のため、人のために尽くしうる、有為の人材の養成」ということになる。これは、特定の時代や場に限定されることなく、どの時代、どの場でも通用する普遍的な理念である。大学を構成するメンバー、特に教員は誰もが一家言を持っている。それらの多様な声に耳を傾け、誰もが納得する社会的使命にまとめ上げていくことは、そう容易なことではない。ここまで到達するには、相当の困難があったそうだが、建学の理念を柱に据えることで、大学の方向性が定まっていったという。財務状況に関しては、図1に示すように、2017年度以降は収支バランスを確保できないマイナスで推移するという予測のもと、中長期事業計画に公開した。当時、大学の財務状況について、その見通しまでを公表する大学は少なく、しかも、支出が収入を上回るマイナス予算という、およそ大学にとって都合の悪い情報を公開する大学等ないに等しかった。それを敢えて公表したのは、データをきちんと示し、それをもとに議論することが重要と考えたからにほかならない。これらを見るに、第1次中長期事業計画は、大学外部に対しての情報公開という以上に、大学内部の結束を図るための情報共有の意味合いが強かったように思う。情報共有によって風通しを良くすることで、忌憚のない議論を重ねることができ、そのことが大学を強くするという意図が、当時の執行部にはあったのだ。リクルート カレッジマネジメント220 / Jan. - Feb. 2020瀬野 隆 常任理事国士舘大学〈学校法人国士舘 中長期事業計画〉CASE2防災教育で養成する有為の人材大学内部の結束が強まった第1次中長期事業計画
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