カレッジマネジメント220号
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32リクルート カレッジマネジメント220 / Jan. - Feb. 2020保に象徴される近年の好調が過去10年以上に及ぶ継続的な営為が実を結んだものであり、一朝一夕に実現したわけではないことを示すものでもある。その意味からも、福井工大の継続的な営為を支えてきたと思われる「中期(経営)計画」の役割に注目しておく必要がある。恐らく企業経営がそうであるように、「中期計画」の策定・実施が直截的に大学経営の改善や安定を保証するものではないだろう。大学経営は、人口動態や高等教育をめぐる政策や市場の動き、機関の戦略や行動が複合的に作用する「複雑系」だ。しかし、私立学校法改正(2020年4月)による中期計画策定義務化を受け、既に中期目標・中期計画制度を導入している国公立大学と合わせ、「中期計画」が大学経営の共通ツールとなっていくことは確実であり、その機能や意義を先行するグッドプラクティスから学ぶ意義は大きいと言える。福井工大について見れば、設置者である学校法人金井学園の「第1次中期経営計画」が始動したのは2009年のことだ。同学園の中期計画は1期5年のサイクルで策定・実施されていて、2014~18年度の「第2次中期経営計画」を経て、2019年度からは3期目に入っている。ただ、各中期計画の内容や構造を精査してみると、その流れは必ずしも継続的に積み重ねてきたものというだけでないことが分かる。特に第1次・第2次中期経営計画と第3次中期計画とを比較すると、そこには名称変更―「中期経営計画」から「中期計画」へ―にとどまらない、ドラスティックな転換が生じたことが指摘できる。「第3次中期計画」(2019~23年度)の特徴は、第一に、策定プロセスの違いに見ることができる。もちろん、現行の第3次中期計画は、第2次までの振り返りを通して策定されたものだ。掛下学長によれば、第2次における最大の成果は、きちんとした教育を構築して人材育成を行い、社会に人材を送り出すべく「3学部8学科体制」への移行を実現させたことにある。その組織的基盤に基づいて第3次中期計画が策定されている以上、第3次が第2次の延長線上にあることは確かだ。しかし本質的な違いもある。第1次・第2次が法人主導のトップダウン色が強かったのに対し、第3次中期計画が現場からのボトムアップで策定されているからだ。中心的役割を担ったのは、10年後20年後に大学運営の中枢を担っていくことになる30代後半から40代半ばまでの若手教職員。法人を構成する大学・学校・本部から若手教職員が数名ずつ、理事長直下に置かれた策定委員会もしくは策定小委員会に参画し、2017年10月から2019年4月までの約1年半にわたって、隔週のペースで会合を開催して策定作業を進めていったそうだ(図3)。経営企画部長をリーダーとする委員会では、若手のコアメンバーが「中期ビジョン」とそれに基づく「戦略分野」の各項目を策定し、それらを学校種ごとに「中期計画」に落とし込んでいったという。こうした若手起用によるボトムアップ方式の中期計画策定は理事長の発案だそうだ。次代を担う若手教職員の能力育成や責任感醸成の必要性が認識された結果だった。2018年4月就任の掛下学長は、このプロセスに直接関わったわけではないが、第3次中期計画が「福井工大をどのような大学にしていくのか、どう変えていくのか」の意思表明だったと考えれば、将来の大学像を当事者として大胆に「地域協創×総合大学」と打ち出すに至った若手の力を高く評価する。さらに、ボトムアップによるプロセスを通して「自分たちの目標」という意識が醸成され、団結力も高まったのではないかと述べる。第3次中期計画の第二の特徴は、中期計画が「戦略分野→行動目標→KGI→実施計画」の順に構造的に整理される若手教職員がボトムアップで中期計画を策定図3 第3次中期計画策定委員会 理事長福井工業大学教職員4名福井工業大学教職員5名福井高等学校福井中学校教員3名福井高等学校福井中学校教員6名法人本部職員2名法人本部職員2名リーダー経営企画部長サブリーダー経営企画課長<策定委員会>策定小委員会

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