カレッジマネジメント220号
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58日本の大学改革は米国の大学をモデルに進められているといわれている。ティーチング・アシスタント(以下TA)、シラバス、授業評価等はその象徴であるが、制度導入以来様々な問題に直面している法科大学院も米国に倣ったものである。いうまでもなく、制度やシステムは、社会、経済、文化等の背景と深く結びついており、より大きな文脈のなかで考察することが重要である。これらの理解なしに他国で有効とされたものを導入したとしても、実効ある形で根づかせることは難しい。それにも拘わらず、米国発の概念や方法が注目されては、改革の名の下にその導入が促され、熱心に取り組む教員がいる一方で、大多数は困惑か無関心というのが多くの大学の実情ではなかろうか。米国と日本の両国で教育研究に携わった経験を有する大学教員は現在の状況をどう見ているのだろうか。日本家族社会学会会長を務めた社会学者である石井クンツ昌子お茶の水女子大学教授にインタビューを行った。石井教授は、カリフォルニア大学リバーサイド校(以下UCR)で助教授、准教授として19年勤務した後、お茶の水女子大学で13年間教授を務めており、現在も日米両国の学会で活動を続けている。一人の教員の経験に基づく見解ではあるが、現場での肌感覚を通した率直な感想や意見を聴くことができた。以下、その要旨を記載するが、発言のニュアンスが伝わるように記述は丁寧体によることとした。米国の大学が日本の大学と決定的に異なるのはインブリーディングを避けるという点です。米国では、卒業生が同じ大学の教員を目指すこともなければ、大学も卒業生を採用しようとは決して思いません。これは制度でもルールでもありません。オープンな公募ですから誰でも等しく応募できますが、米国では、大学を発展させるためには、内部の人達で固めるのではなく、外部から人材を得て、常に異なる発想や新たな視点を取り入れるべきとの考えが徹底されているのです。これらのことは学長選考についても同様で、優れたリーダーを全米のみならず世界中に求めようとしています。それに対して日本の大学はインブリーディングを避けようとしないばかりか、むしろ出身者を採ろうとする傾向も見受けられます。UCR時代に何度も人事面接に関わりましたが、卒業生は一切応募してきませんでした。教員達も優秀な卒業生であればあるほど外で活躍してほしいと思っています。この点が日本の大学と根本的に違います。日本では公募形式を採りながら、予め採用予定者を絞り込んでいるということもあるようですが、米国では差別として許されず、発覚すれば大学の評判を落とすことになります。その一方で、カリフォルニア大学の場合、アファーマティブ・アクション(armative action=積極的格差是正措置)により、能力・業績など全く同等の条件ならば女性やマイノリティを優先します。それを監視するための全学的な委員会が置かれ、全ての案件について厳大学を強くする「大学経営改革」米国大学との比較を通して大学改革を問い直す吉武博通 公立大学法人首都大学東京 理事──石井クンツ昌子 お茶の水女子大学教授に聴くリクルート カレッジマネジメント220 / Jan. - Feb. 202085米国をモデルに推進される日本の大学改革徹底されている「インブリーディング※を避ける」
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