カレッジマネジメント220号
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59格なチェックが行われます。大学が、研究に重点を置くか、教育に重点を置くかで明確に分かれているのも米国の特徴です。カリフォルニア州を例にとると、同じ州立の大学でも、バークレー校やロサンゼルス校等University of California(UC)を冠する10校は研究大学です。私が勤務したUCRもその1校です。他方、California State University(CSU)を冠する23校は教育に重点を置く総合大学です。このほかに2年制のコミュニティ・カレッジがあります。私は研究をしたかったので、UCRでテニュアトラックの助教授の職に就きました。5年間の研究業績を基に、テニュア審査を受けるのですが、着任後最初に言われたことは「研究に対する強いプレッシャーを覚悟しなさい」ということです。いわゆる“Publish or Perish(出版か死か)”、論文を発表し続けない限り、研究者としてはやっていけないという厳しさを覚悟しなければなりません。先輩教員からは、「委員会の仕事を断り、学生の授業評価も気にしなくていいから、とにかく研究、研究、研究」と言われ、毎年メンター教員とサポート教員による厳しいアニュアルレビューを受けました。そこでは論文の書き方等かなり実践的な指導・助言も受けます。そして、5年目にテニュア獲得の可否を問うテニュアレビューが行われます。審査には学部内の教授だけでなく、学内他分野の教授や学外の教授も加わりますが、この審査に漕ぎ着けるまでが大変で、アニュアルレビューの段階で「これ以上頑張っても無理」と退出を促されることもあります。大学院生も同様で、一つでもBがつくと修了が難しくなり、教員は見込みがないことを学生に告げます。それだけに成績評価を行う教員の責任も重くなります。他方、CSU各校では、研究より学生による評価や授業内容・方法の工夫等、教育にウェートを置いたテニュア審査が行われます。教育の質という面からみると、これらの大学の方が研究大学より高いといえるかもしれません。教育力の高さが大学の存在価値になるのですから当然です。日本の大学教員は、教育も研究も同じように求められ、管理運営に関する負担もあります。強いプレッシャーを受けながら研究に集中する米国の研究大学の教員と競っていけるのか疑問も感じています。研究大学は優れた研究を行うことで優秀な大学院生を集めることができ、その大学における研究を通して鍛えられた院生が様々な大学に赴いて活躍することで、米国全体の研究力が向上するという好循環ができあがっています。また、米国の研究大学では全米のどこに優秀な学部学生がいるかを予め把握し、自分の大学院に勧誘することリクルート カレッジマネジメント220 / Jan. - Feb. 2020【略歴】1987年ワシントン州立大学 大学院博士課程(社会学)修了(Ph.D取得)1987年カリフォルニア大学リバーサイド校 社会学部 助教授1993年カリフォルニア大学リバーサイド校 社会学部 准教授2006年お茶の水女子大学 生活科学部 教授2007年お茶の水女子大学 大学院人間文化創成科学研究科 教授2015年お茶の水女子大学 基幹研究院人間科学系 教授、ジェンダー研究所 所長【主な学会活動】全米家族社会学会、全米社会学会、国際社会学会日本家族社会学会(2016年〜2019年会長)、日本社会学会(2015年〜2018年理事)石井クンツ昌子 お茶の水女子大学教授“Publish or Perish(出版か死か)”優れた大学院生獲得のための弛まぬ努力とTAシップを中心とする手厚い支援

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