カレッジマネジメント220号
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60リクルート カレッジマネジメント220 / Jan. - Feb. 2020が当たり前のように行われています。論文表彰を受けた学生の情報を集め、教員間のネットワークを駆使し、優秀な学生を発掘して、手厚い支援を提示して入学を促します。米国の院生支援は日本とは比べものになりません。UCの場合、4年間のTAシップ(奨学支援制度)が入学してくる全ての院生にオファーされます。私が在職した頃でも月額1500ドル程度の支給があり、世帯用も含めて宿舎も用意されています。加えて、優秀な学生には授業料免除もあります。生活が成り立つ程度のTAシップを受けられる米国に対して、日本のTA報酬はごく少額にとどまります。有力な研究大学であっても、待っていれば優秀な院生が集まるといった安易な姿勢は許されないのです。UCRはクォーター制を採り、教員はサマースクールを除く3クォーターにおいて、2,2,1または2,3,0等の形で年間5科目程度を担当します。1科目は週4時間、うち3時間は教員が授業を行い、残り1時間の討議セッションはTAが受け持ちます。私が担当した社会学概論は約500人の履修者がいましたが、10人のTAが付き、1人が50人の学生を相手に討議セッションを行います。これ以外に、サマースクールに責任を持ち全ての講義を担当するTAもいます。こうして実質的な教育経験を積ませます。米国のTA制度は奨学支援に加えて、大学教師になるための訓練機会の付与という側面も有しています。日本の大学もTA制度を導入していますが、前述の通り奨学支援としてはあまりに少額で、実際の業務も教員業務の事務的補佐にとどまっています。ちなみに、教育に重点を置くCSU各校の教員は、UC各校の教員の倍くらいの科目を受け持っています。また、CSUの多くは修士課程までで、博士課程はUC各校が担うという機能分担が明確です。多くの大学が修士課程を置き、さらに博士課程も持とうとする日本とはかなり違います。日本でも大学の機能別分化が求められていますが、院生確保に苦労しながら大学院を維持するよりも、学士課程の教育に資源を集中し、教育の質の追求を徹底する大学がもっと増えてきても良いのではないかと感じています。教育面については、日本でもシラバスが定着しつつありますが、米国の場合、シラバスは教員と学生の契約です。授業の目的、スケジュール、学生が準備しておくべき事柄、成績評価等を予め具体的かつ明確に示す必要があります。シラバスに沿った授業をやっていなかった、シラバスに示された基準で評価されなかったということで学生に訴えられるリスクもあるため、裁判費用保険に加入している教員も少なくありません。成績を出した途端に交渉に訪れる学生もおり、特に女性やマイノリティの教員ほど交渉に来る学生が多かったように思います。私は一度付けた成績を決して変えませんが、説明はしっかり行っていました。特に、メディカルスクールやロースクール等のプロフェッショナルスクールへの進学を目指す学生のGPAスコアへの拘りは強く、企業も採用にあたってGPAを重視します。この点は日本と大きく異なります。一方で、ルーブリックやポートフォリオ等、UCではあまり重視されていませんでした。そもそも米国の大学は学生にそれほど親切ではなく、勉強は自分でやるものとの意識が強いように思います。また、FDという言葉もあまり聞きませんでした。シラバスの書き方を教え、授業方法を教員に指導する等はアカデミック・フリーダムを侵すことになりかねません。FDに出席するくらいなら研究したり、自分の授業を良くすることを考えたりするほうがよほど生産的であるとの考えが強いのだと思います。教育に重点を置く大学であっても、どのような内容をどう教えるかは個々の教員の創意工夫にかかっています。シラバスも教員がそれぞれのユニークさを出しながら書けばいいという雰囲気があります。ただ、研究大学でも総合大学でも学生による授業評価の結果は重視され、徹底的に活用されます。特に総合大学ではテニュア審査において大きな要素となります。大学運営面では、日本の大学の事務職員に相当する人々シラバスは教員と学生の契約高い専門性を有するプロフェッショナル

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