カレッジマネジメント221号
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10利害が激しく対立する国家・経済圏の平和的な共存、資源供給・環境保全・格差是正を通した持続可能な社会の実現に向けて、極めて困難な課題が山積している。複合的要因によって情勢が目まぐるしく変化するなかで、社会の構成員一人ひとりの主体的で良識ある参画(social engagement)が不可欠であることが強調されている。とりわけ少子高齢化の最先進国である日本においては、若者一人ひとりをいかに責任ある社会の担い手として育てていくかが、急務の課題となっている。大学は、「学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与する」(教育基本法第七条)教育機関として規定されている。このように大学は伝統的に、知識の創造・普及・継承を司る教育主体として、その社会的意義を広く承認されてきたが、上述した社会環境の変化によって、社会との関与のあり方に大きな修整を求められている。大学がいかなる知識を社会と共有するかといった供給者本位の視点ではなく、次世代の担い手である学生が何を知り、理解し、行えるようになるかといった需要者本位の視点から大学教育をリ・デザインすることが求められている。中央教育審議会『2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)』(平成30年)で強調されている「学修者本位の教育への転換」とは、このことを意味しており、その実現に向けた各大学における自主的な取り組みに資する参考資料として、同『教学マネジメント指針』(令和2年)は取りまとめられたと考えている。学修成果を起点に大学教育をリ・デザインする取り組みは、中央教育審議会『学士課程教育の構築に向けて(答申)』(平成20年)で打ち出されて以降、各大学において、それぞれのミッション、教育資源、学修者のニーズに応じた方法で展開されてきた。各大学が置かれている文脈の多様性に鑑みて、最適の方法は一様ではない。その大前提のもとに、ここでは12学部17学府(大学院)を擁する研究大学である九州大学で取り組んでいる教学マネジメントの実質化に向けた取り組みについて紹介したい。ここでいう教学マネジメントとは、大学が教育の目的を達成するために行う管理運営を意味し、いわゆる3ポリシーを適切に運用するとともに、その成果を定期的に点検・評価して、恒常的な教育の質向上に取り組んでいくプロセスを指す。九州大学の取り組みは、平成30年度における検討を経て令和元年度に着手したばかりであるが、教学マネジメントの実質化を目指す同朋である各大学にとって何らかの示唆を提供することができれば幸いである。九州大学では、第3期中期目標・中期計画に基づく平成30年度計画の一環として、大学の教育力を捉える観点と方法に関する全学的検討を深め、教育の質向上を目指す取り組みの指針となる「九州大学教学マネジメント枠組み」(図1)を策定した。本枠組みのポイントは、学位プログラムと授業科目の階層を明確に区別し、それぞれの階層で教育の質向上を推進するために導入されているツールについて整理するとともに、学位プログラムと授業科目を繋ぎ、全体を教育の目的を達成するためのシステムとして機能させる要となるのが、大学教員個人・集団としての「専門的判断力(Expert リクルート カレッジマネジメント221 / Mar. - Apr. 2020寄 稿需要者本位の視点からのリ・デザイン九州大学教学マネジメント枠組み九州大学 教育改革推進本部 評価部門教授深堀聰子教学マネジメントの実質化に向けて九州大学カリキュラム・マップによる学修者本位の教育文化の構築

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