カレッジマネジメント221号
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142018年11月20日の中央教育審議会大学分科会において「教学マネジメント特別委員会」の設置が審議・了承され、2018年12月18日の第1回を皮切りに、2019年12月17日まで計12回の委員会が開催された。筆者は、当委員会の委員として「教学マネジメント指針」(以下、「指針」という)の策定に関わる機会を得た。指針においては、教学マネジメントを「大学がその教育目的を達成するために行う管理運営」と定義し、それを支える基盤の一つに「インスティテューショナル・リサーチ」(以下、「IR」という)が位置付けられている。本稿では、指針の審議過程を踏まえつつ、日本の大学の現状と課題とを照らし合わせながら、IRの確立に必要とされていることについて解説する。指針の用語集において、IRは「Institutional Researchの略。高等教育機関において、機関に関する情報の調査及び分析を実施する機能または部門。機関情報を一元的に収集、分析することで、機関が計画立案、政策形成、意思決定を円滑に行うことを可能とさせる。また、必要に応じて内外に対し機関情報の提供を行う」と定義されている。また「本指針においては、教学に関する部分について「教学IR」として取り扱っている」との補足がなされており、指針では「教学IR」という表記で統一されている。IRの現状については、文部科学省が実施・公開している最新の調査結果が参考になる(文部科学省高等教育局大学振興課大学改革推進室,2019)。同調査によると、下表の通り全学的なIRの専門組織または委員会方式の組織を有する大学は475大学(回答大学758大学の62.7%)となっている。平成24年度に比して増加傾向にあるものの、平成28年度現在、約4割の大学においては未整備であることを示唆している。また、IRの専門組織を有する大学における専任の教職員のうち、IRを研究の対象としている者またはIRの企画や実施方法等に関する専門的な高等教育プログラムを受講した者を配置している大学は53に留まっており、専門人材が不足している実態も浮き彫りになっている。加えて、IR担当者が全学のデータにアクセスできる権限は図1のように6.2~14.3%と極めて低く(小林・山田(編)、2016;191頁)、国公私立の設置形態を問わず、データ収集・管理が依然、課題となっている現状が報告されている(橋本・白石、2019;18頁)。上記の日本の大学におけるIRの現状と課題を踏まえ、指針では教学IR体制の確立に必要なこととして、「環境整備」及び「人材育成」を挙げている。リクルート カレッジマネジメント221 / Mar. - Apr. 2020IRとは何か?日本の大学におけるIRの現状と課題「教学IR体制の確立」に必要なこと環境整備・人材育成、そしてFD・SDの高度化全学的なIR部署の設置状況(N=758)平成24年度平成28年度専門の担当部署を設けている81大学(10.6%)279大学(36.8%)委員会方式の組織を設けている81大学(10.6%)196大学(25.9%)寄 稿山形大学 学術研究院 教授名古屋大学 IR本部 特任教授浅野 茂教学マネジメントを支える基盤としてのIR

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