カレッジマネジメント221号
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19リクルート カレッジマネジメント221 / Mar. - Apr. 2020きるわけでもない、等の限界には留意しつつも、単に授業科目ごとの成績評価を示すだけでは学修成果・教育成果の把握・可視化としては不十分であり、学生が、同方針に定められた学修目標の達成状況を可視化されたエビデンスとともに説明できるよう、複数の情報を組み合わせた多元的な形で行う必要がある。その際、エビデンスとして使用可能な情報について、同方針の各学修目標にひもづけて整理し、同方針に定められた資質・能力を身につけていることを示すことが考えられる。同方針に定められた学修目標の達成状況を明らかにするための学修成果・教育成果に関する情報の例としては、図表に掲げたようなものがあげられる。学修成果・教育成果を最大化するためには、教職員の能力向上が必要不可欠である。各大学は、「卒業認定・学位授与の方針」に沿った「学修者本位の教育」を提供するために必要な「望ましい教職員像」を定義したうえで、対象者の役職や経験に応じた適切かつ最適なFD・SDを組織的かつ体系的に実施していく必要がある。特に、教員としての経験が少ない新任の教員や実務経験のある教員の採用のタイミングで、大学教員に一般的に求められる基礎的な知識・技能や学位プログラムを担う教員として望ましい資質・能力を身につけさせるためのFD・SDは確実に実施されることが必要である。加えて、FD・SDは、学修成果・教育成果の把握・可視化により得られた情報の共有、課題の分析、改善方策の立案等、実際に教育を改善する活動として位置づけ、実施する必要がある。また、教学IRは、教学マネジメントの基礎となる情報を収集するうえでの基盤であり、学長をはじめとする学内の理解を促進するとともに、教学IRを実施するうえで必要となる制度の整備や人材の育成を進めていく必要がある。各大学が、学生や学費負担者、入学希望者等の直接の関係者に加え、幅広く社会に対して積極的に説明責任を果たしていくことが必要である。今後、各大学がその有する強みと特色を生かして学修者本位の観点からその教育を充実していくためにも、学生の学修成果や大学全体の教育成果に関係する情報をより自発的・積極的に公表していくことが必要となる。また、地域社会や産業界、大学進学者等の大学の外部からの声や期待を意識し、社会からの信頼と支援を得るという好循環を形成するため、さらに、社会からの評価を通じた大学教育の質の向上を進めるためにも、情報の公表を積極的に進めることが必要である。大学の活動は多面にわたっていることから、情報公表を進めていくに当たっては、様々な情報を組み合わせて、大学全体の姿をできるだけ包括的に描き出す必要がある。個々の情報が単独で示すことのできる内容には限界があることから、個々の情報に対する分析や解説を、その根拠と合わせて公表すること等により、大学教育の質を判断する情報の一つとして活用することができるものと考えられる。情報に附帯する分析や解説等の考慮等、必要な配慮が行われることなく、ごく特定の指標のみを用いて大学教育の質を測ろうとすること、一面的な大学の序列化につながるような利用を行うことは、大学教育に対する理解と見識を欠いた行為と言わざるを得ない。情報公表の対象として考えられる情報の例としては、図表に掲げたようなものがあげられる。 本指針の概要は以上の通りであるが、大学関係者と大学外の方々に一つずつ期待を申し上げて原稿を締めくくることにしたい。2において触れている通り、教学マネジメントは、各大学が自らの理念を踏まえ、それぞれの実情に合致した形で構築すべきものである。本指針は決して「マニュアル」ではない。各大学関係者が、本指針を踏まえつつも、創意工夫を行いながら、主体的に取り組みを進めることを期待したい。また、教学マネジメントの確立は、各大学において短期的に完全な形で実現されることは想定されず、安定的・継続的に取り組まれることで実現に近づくものである。課題があっても各大学が真摯に取り組み続けること自体を、大学外の方々も肯定的に捉え、長期的な視点で取り組みを評価・支援することを期待している。特集 教学マネジメントⅣ教学マネジメントを支える基盤(FD・SDの高度化、教学IR体制の確立)Ⅴ 情報公表3. おわりに
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