カレッジマネジメント221号
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22リクルート カレッジマネジメント221 / Mar. - Apr. 2020学修成果の可視化を進めている大学は多いだろうが、そのプロセスに目を向けている大学はどの程度あるだろうか。特に教員による教授行動については、学修成果に大きな影響を与えることを当然視しながらも、ある種の「聖域」として、その実態を可視化することをあえて避けているのではないか。授業評価(アンケート)は授業改善の基本的施策として定着しつつあるが、その評価に対する信頼性や学生の(消費者としての)目線からの授業満足を追求することへの違和感なども指摘されており、教授行動の実態を可視化していると言えるのかは疑問である。産能大では、授業評価だけでなく、授業内スタッツデータの測定により教授行動を細かに可視化し、IRとFDをつなげることによって授業改善を進めている(図表3参照)。具体的には、授業内の教員の行動についてトレーニングを受けた学生がスタッツデータを測定し(図表4参照)、その分析結果に基づいて各教員に授業設計・運営等に関するコンサルテーションを実施するとともに、大学全体として組織的に授業改善を図る体制を整備している。教員は、1年に1回はこうした機会を設けることになっている。「教員の抵抗や反発はなかったのか」と率直な疑問を投げると、「経営学やマネジメント等に関連する実務家教員が7割を超えていることもあり、さほどの抵抗はなく、前向きに取り組んでくださっている」と浦野学長はにこやかに答えてくれた。とはいえ、「抵抗感のある教員もいると思うので、『モデル授業の開発のため』ではなく『個々のPDCAに沿った授業改善を加速するため』と丁寧に説明し、半期に一度の学部長面談も『どう解釈されていますか』といった問いかけ型で行い、改善したところを中心に確認している」と、この取り組みが自己改善を促す趣旨であることを強調して、同意を得ているとのことである。自己改善を促す働きかけにするためには、データ測定を目的化せず、実効性のあるものにする必要があるだろう。そのための工夫として、「教学管理職によるコンサルテーション」や「FD研修による組織的な授業改善」も積極的に行っている。授業に対して、「優劣」や「良し悪し」といった上下の評価ではなく、タイプに重きをおいた「(教員の個性を活かした)特色ある教育」として評価をし、授業研究も促しているという。学修成果に直接的に影響するのは、言うまでもなく学生の学習行動である。産能大では、LMS(Learning Management System)を活用し、学生の学習行動として、授業出席状況や課題提出状況だけでなく、授業時間外の学習にも着目し、その可視化を進めている。具体的には、授業冒頭に学生自身が、LMSに自身の授業外学習時間(分)、リーディング量(字)、ライティング量(字)、学習に一番費やした内容等を入力している。「手作りのシステムだが、学生自身が入力することで、自覚や自己認識を促すことにつながっている」と杉田学長補佐はその意義を強調する。入力された結果(データ)は学生と教員が共有し、教員は授業設計等の改善案を検討するなど、授業改善にも役立て・授業出席状況・課題提出状況・学生生活アンケート・授業外学習時間、リーディング量、ライティング量調査・LMS※利用状況・GPA・技能・態度(RROGテスト)・学生ヒアリング調査・卒業生調査・就職先調査・授業外学習内容の詳述(シラバス改訂)・授業内スタッツデータの測定A.教授行動の可視化B.学習行動の可視化C.学修成果の可視化大学提供資料より抜粋 ※LMS:Learning Management System図表2 可視化の3つの取り組み図表3 教授行動の可視化による授業改善 PlanDoCheckAction目標管理制度(MBO)、学習者行動改善シート(授業改善)シラバス改訂・授業内スタッツデータの測定・授業後アンケート・学生ヒアリング・授業撮影・授業参観・学部長面談・コンサルテーション・特色ある授業の抽出・FD研修における 授業研究教授行動の可視化─「聖域」である授業内スタッツデータの活用学習行動の可視化─授業時間外学習への着目大学提供資料より抜粋

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