カレッジマネジメント221号
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25シーごとに学生個人のGPAが算出され、その学科のGPAの平均と比較したレーダーチャートが示されている点にある。卒業時に身につけるべきとされているコンピテンシーをどの程度身につけたか、どの領域のコンピテンシーの獲得度合いが高いか、レーダーチャートで一目瞭然である。また、ジェネリック・スキルの到達度についても、学生個々人のスコアと平均とが比較して記されている。さらに、これまでに取得した資格、サークルやボランティアの正課外活動も記されているうえ、ゼミ担当教員の総評コメントが加えられ、これらの情報から大学でどのような学生生活を送ってきたかを総合的に知ることができる。この「学修到達レポート」は、卒業時の質保証を目的にしているにも拘わらず、卒業時だけでなく、3年次末時点のデータにもとづく仮発行が行われる。なぜ、このような奇妙なことが行われているのか。これは、「学修到達レポート」が、何よりも学生の就職活動に際して、雇用者側に見てもらうことを1つの重要な目的としているからである。新規一括採用を原則としている日本の労働市場を考えると、卒業時に発行するだけではあまり意味を持たない。就職活動中に、学生の資質をより知ってもらうことを考えて、3年次末にも仮発行することにしたのだそうだ。しかし、福祉系の専門職養成に力を入れている当該大学で、なぜ、「学修到達レポート」が必要になるのだろう。専門職資格を持っていることで、労働市場において充分に認められるではないか。それに対して、児玉善郎学長は、「確かに、日福大の学生は良いという声を頂きますが、では、どこが良いのか、大学が自信を持って証明しようと考えました。専門職資格は、試験に合格したに過ぎません。入職後にどのように実践の中でその専門性を活かすことができるかが重要で、それを見極めてもらう手段の1つとして導入を決めました。専門職〇〇士というだけでなく、日福大を出た専門職〇〇士にしようというのが狙いなのです」と、語られる。ジェネリック・スキルの到達度や正課外活動を記載しているのは、そのためである。ところで、「学修到達レポート」に記載される、ジェネリック・スキルの到達度、資格の取得状況、正課外活動などの情報は、どのようにして収集しているのだろうか。レポート作成の際に情報を提供するのが、「統合学生カルテ」と称されるポートフォリオ・システムである。これは、1.学士課程における正課内外の教育・学習、2.就職、3.学生生活の3つの側面にわたって、入学から卒業までの学生の活動状況や成果に関する学生個人の記録であり、学生自身が記入する情報、大学の基幹システムと同期する情報、教職員が記録する情報等がある。学生は、年度当初に学修到達目標を設定してそれを入力し、年度末には教職員の助言も得てそれを振り返り、翌年の学修について自ら考えられるようになることが期待されている。この「統合学生カルテ」を中心に、図表2に見られる縦軸と横軸からなる質保証システムを構築している。縦軸は、質保証の一貫性を整備するものである。これまでにもポートフォリオは、キャリア形成支援、学生生活と個別に作成されていた。しかし、それらを正課学習の成果と一本化し、「統合学生カルテ」とした。学生の成長の度合いが多面的に把握できる。他方、横軸とは、質の下支えをする教育の取り組みである。学部の正課教育を協働・支援するための、キャリアディベロップメントプログラムや基礎リテラシー養成プログラムがそれである。これらは必要に応じて、正リクルート カレッジマネジメント221 / Mar. - Apr. 2020図表1 学修到達レポート特集 教学マネジメント縦軸と横軸による質保証
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