カレッジマネジメント221号
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29以前からの取り組み、それ以降の各種補助金事業での取り組みを含め、地域社会との連携は20年以上にわたるものとなっている。大学が立地する長野県・松本地域は歴史的に教育県としての伝統をもち、公民館活動をはじめとする社会教育・生涯学習が非常に盛んな地域である(2015年の文部科学省「社会教育調査」によれば、長野県の公民館数は1305館として全都道府県で最も多く、2位の山梨県は487館である)。しかし、地域の教育力を大学教育につなげ、学生の学びに取り組む意欲やきっかけとして重視していくことになったのは、地域に高い教育力があったことだけが理由ではない。地域との連携を深めるようになったのは、金沢工業大学の学生が大学ロボコンで活躍する様子からヒントを得たものであるという。同校の学生達が、ロボコンで勝ちたい、そのためには勉強をしないとダメだということで、問題意識や目標を持って自分で勉強していく学びへの取り組みを知ったときに、松商短大にとってロボコンに当たるものは何かを考えた。そして、社会科学では「地域」がロボコンに当たり、地域の人達の持っている教育力を活かすことにつながったのである。地域の教育力を大学教育に組織的に取り入れることが、学生の学習意欲につながることに気づいたのには3つのエピソードがあると、住吉学長は話す。1つは、地域の人と関わることで学生が変わる様子を目の当たりにしたことである。かつて松商短大には学生用の駐車場がなく、学生の車通学は禁止していた。しかし、近隣の商店やコンビニなどの駐車場に止めて通学する学生がおり、大学への苦情が寄せられていた。そのような学生に対して、大学として注意、停学などの処分を行っていたが、卒業近くなると停学にしてもそもそも授業がないことから実質的な意味がない。そこで、学生にはペナルティとして冬の道路の雪かきをやらせるようにしていた。学生にとっては「罰としての雪かき」なのであるが、地域のおじいちゃん、おばあちゃんが、雪かきをする学生にジュースやお菓子をあげるなど感謝を示してくれるということがあった。そのような地域の人達との関わりのなかで、ペナルティとしての作業期間が終わったあとも、その場所の雪かきが終わらなかったので続けて作業する、という学生が現れたという。地域の人達との関わりが学生の意識や行動を変えていったのである。2つ目は、地域の人との交流のなかで、学生が社会人として必要な社会性を身につけていったことである。かつてゼミ活動のなかで、学生達と地域の町内会の人達と関わるなかで、学生が動かずに教師が動いている様子を見た町内会の婦人部のおばちゃんが「先生にやらせずに、ちゃんとやれ」と学生達を大声で叱ったことがあるという。学生達は、自分達がなぜ叱られたのか、自分達のことを思って言ってくれていることは理解する。それから学生の様子が変わっていった。その数年後、そのおばリクルート カレッジマネジメント221 / Mar. - Apr. 2020図表1 地域の教育力を活かした大学教育の取り組み基礎学力生活習慣能動性学ぶ姿勢感情・感性初等教育コミュニケーション興味認識力向上(学び)人間・学生学びの対象活躍する人材地域社会相互作用働きかけMotivation問題意識問題点の認識課題の認識(抽象化)成果人間の幸せ(地域社会の活性化)(困ったことの解決)意識的取組学習の応用トライ・挑戦●単なる相互作用の繰り返しではない(教員の意識が介在している)●認識力向上の学びと地域社会との連携が不可欠という認識が教員には必要●地域紙の存在試される教員の研究力量家庭教育遊び活動が評価される地域をつくる営み認識から行動へ(飛躍が必要)社会への貢献認識の深まり創造性認識力特集 教学マネジメント地域の教育力に気づいた3つのエピソード

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