カレッジマネジメント221号
31/58

31リクルート カレッジマネジメント221 / Mar. - Apr. 2020でなく、カリキュラムのあり方を含めて、学生の学習意欲を高める工夫を進めてきたのである。2016年に採択されたAP事業では、「学修ポートフォリオ」や「ルーブリック」による学修成果の可視化を通して、学生が自分自身の成長を把握しながら主体的に学習を進める環境を整備するとともに、 学修成果を記述した「ディプロマ・サプリメント」を卒業時に発行することで、修得した能力を客観的に評価する仕組みの構築を進めてきた(図表3)。具体的には、卒業までに育成される能力であるコア・コンピテンスを「コンピテンス配分表」として学生に提示し、ルーブリック評価により学生自身が何ができるようになったのかを客観的な把握をできるようにした。そして、その学修成果を、取得した資格などと合わせて「ディプロマ・サプリメント」として可視化して示すだけでなく、個々の学生の学習指導にも用いるようにしている。さらに、資格・検定試験に向けた集中的な学習を促進し、海外研修等の学外プログラムを行いやすくするために、4学期制を導入するなど学年暦の見直しを行い、授業科目の見直しを進めている。このような学修成果の可視化の取り組みを進めつつ、住吉学長は「ルーブリックも、PDCAも実施している。しかし、それらの形式を整えるだけの無意味な時間にならないようにしないといけない。学生にとってやらされ感のある学びではなく、自分からやりたいという学びとしてやっていかないと意味がない。そうではないと学生は伸びない」と、学生の学習意欲の大切さを強調する。そのため、学修ポートフォリオでの学修成果の可視化や授業評価アンケートなどを用いた授業改善を行う一方で、学生の学習意欲につながるカリキュラムとなっており、学生が意欲を持って学んでいるかを見るために、学科単位でのGPAの分布状況を確認している。そこから、学生が授業を面白いと感じ、意欲を持って学べば、1年次から上級生にかけて時系列的にGPAは上がり、そうでなければ下がっていることが見えてきたという。そして、「ルーブリックを取り入れれば、学生が本当の学びをやるわけではない。自分達の教育哲学を持たないとルーブリックという手法にとらわれてしまう」と方法に依存することを戒めたうえで、「目の前にいる学生をどうするかということで考えないといけない。うちの学生にあったやり方、学生に見合ったやり方は、オリジナルであるはず。そういうオリジナルなことでやっていかないと意味がない」と目の前の学生をどのように育てるかを重視する。そのための方法が、学生の学習意欲を高めるための地域と連携した教育であり、ルーブリックをはじめとする様々なツールを用いた学修成果の可視化なのである。このような松本大学松商短期大学部の取り組みは、現在、国の政策として教学マネジメント指針が定められ、学習成果の可視化が求められているなかで、大学教育にとって何が重要なのかを改めて考えさせられるものである。色々な大学で様々な教育改革のツールが取り入れられている。しかし、ツールを導入するだけでは「仏を作って魂を入れず」となってしまう。学生の学習意欲という大学教育の魂にこだわる松商短大の取り組みは教育の原点の重要さを教えてくれるものである。(白川優治 千葉大学国際教養学部准教授)図表3 大学教育再生加速プログラム(AP)テーマVの概念図特集 教学マネジメント学修成果の可視化に向けた取り組み教育哲学を持たないとルーブリックという「手法」にとらわれてしまう④履修(A:Action)「コンピテンス配分表」社会に対する学修成果の提示「ルーブリック」「ディプロマ・  サプリメント」多様な評価指標の共通化学修成果の可 視 化「検定・資格」「学修ポートフォリオ」取得学位・資格の追加情報・学修成果の提示「e-ポートフォリオ」コア・コンピテンスの育成を意識した履修本学の教育で育成されるコンピテンスを一覧にした「コンす用使で」クッリブール「、らか」表スンテピる5~8項目のコア・コンピテンスを選定し、各科目で育成されるコア・コンピテンスを示した表①履修(P:Plan)②授業(D:Do)③評価(C:Check)

元のページ  ../index.html#31

このブックを見る