カレッジマネジメント221号
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48「改革」の名のもとに様々な政策が示され、大学は疑問を感じつつも、資金や評価を得るために競うように新たな取り組みに励む。このような状況が、少なくとも国立大学が法人化された2004年前後から続き、近年さらに過熱しているように思われる。一方で、政策当局や改革に奔走する大学本部の熱量に比べて、現場の熱量は総じて低く、真に必要な変革が進み、教育・研究の質の向上につながっているかと問われれば、否定的な見方のほうが多いのではなかろうか。規制緩和を進め、大学の自律性を高める一方で、社会・経済環境の変化に即した変革を促し、質保証をどう機能させるかという課題は、我が国に限ったものではない。このような問題意識に基づき、本号ではドイツの高等教育システムをとりあげ、大学改革のあり方を問い直すための視点を探ることにしたい。米国をとりあげた前号に引き続き、今号では筆者が客員教授を務める独立行政法人大学改革支援・学位授与機構の二人の研究者にインタビューを行った。一人は比較教育学が専門でドイツの高等教育に詳しい吉川 裕美子教授、もう一人はドイツ近現代史が専門で、同機構ではドイツの大学の学内マネジメントや大学財政を中心に研究を行っている竹中 享教授である。16州からなる連邦国家のドイツには、2019年現在394の大学があり、その内訳は総合大学121、専門大学216、芸術大学57、設置形態別には、州立240、私立115、教会立39となっており、約290万人の学生が在学しているが、約9割は州立の学生である。インタビュー要旨部分の記述は前号と同様に丁寧体によることとした。私の専門は比較教育学ですが、教育事象を文化的、社会・経済的、歴史的文脈に照らして考究する学際的な研究領域だと考えています。教育は実験ができません。また、他国の実践を単に取り入れるだけでは効果を期待できません。しかし、その国の教育が置かれている文脈を背景に、政策や取り組みの効果を読み解くことによって、日本に置き換えた場合にどういうことが起きるのか、というシミュレーションを可能にするのが比較研究の強みであると思います。日独の最大の違いは、ドイツは連邦制であり、各州が小学校から大学まで教育に責任を負い、財政負担を行っているという点です。そのため、ドイツ全体がどこに向かうのか見えにくい面があります。他方で、ユニバーサル化、教育の質の確保、少子高齢化、教育に投入される公的資金の抑制など、先進各国の高等教育が抱える共通の課題もあります。州を超えたドイツ全体の政策に関しては、「常設各州文部大臣会議」、「大学学長会議」、「学術協議会」などが調整大学を強くする「大学経営改革」ドイツの高等教育との比較を通して大学改革を問い直す吉武博通 公立大学法人首都大学東京 理事リクルート カレッジマネジメント221 / Mar. - Apr. 2020吉川 裕美子 大学改革支援・学位授与機構教授上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業、フランクフルト大学・ドイツ国際教育研究所への留学を経て、お茶の水女子大学人間文化研究科(博士後期課程)修了。お茶の水女子大学助手、学位授与機構助教授などを経て現職。博士(学術)。専門は比較教育学、日独高等教育研究。86規制緩和を進めながらどう変革を促し、質保証を機能させるかシステムの違いを踏まえた包括的な検討が必要

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