カレッジマネジメント221号
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49機関としての役割を果たしています。例えば、高等教育に係る基本的な事項は、各州大臣を構成員とする常設各州文部大臣会議が協定を結んだり、ドイツ全体の大学が加盟する大学学長会議と連名で勧告を出したりします。それが各州の議会に諮られ、法制化されてはじめて効力が発することになります。学術協議会は、いわば学術と政治の対話の場です。行政と学術の2つの委員会が置かれ、前者には連邦と各州の担当大臣が加わり、後者は研究者を中心とする専門家で構成され、総会で勧告が決議されます。そして、大学学長会議は必要があれば議長声明を出し、政策に対する意見をはじめ大学共同体としての考えを表明します。昨今、日本の研究力の低下を懸念する声も増していますが、このような日独間のシステムの違いを踏まえたうえで、高等教育政策だけではなく、科学技術政策や学術政策全体を包括的に見ていく必要があるのではないかと考えています。そのなかで、私が着目しているのが大学と大規模研究機関の関係です。ドイツには、マックスプランク、フラウンホーファー、ヘルムホルツなど世界的に名高い大規模研究機関があり、これらの機関の研究施設は分野ごとに各州に分散しています。また、これらに属さない比較的小規模な個別研究機関を束ねるライプニッツ学術連合もあります。これらの研究機関は、連邦とそれぞれの研究施設が所在する州からの公的資金で運営されています。州ごとに大学と近隣の研究施設が共同研究など連携をとりやすく、博士課程の学生が研究施設で指導を受けつつ研究を行い、学位は大学が出すという仕組みも整っています。日本でも連携大学院という同様の制度がありますが、ドイツほど研究施設が全土に分散していないなど条件も異なります。一つの州の中で、大学と大規模研究機関が密に連携し、そこに企業が加わる形で、研究が産業発展に貢献し、産業が教育研究の高度化を支えるといった関係が形成されているのではないかと考えています。このことを明らかにするためにはさらに検証が必要ですが、企業は開発にあたり地域の工科大学の教員に相談し、教員の指導の下、修士課程レベルの学生がプロジェクトに加わり、また、より小規模な専門大学が中小企業の機器開発に取り組むというような事例は少なくありません。工業分野にとどまらず、人文社会系でも産官に関わるプロジェクトが行われています。ドイツの大学といえばフンボルト理念に基づき純粋研究が重視されるという印象が強いかもしれませんが、第三者資金の獲得を見ても分かるように、総合大学であっても、純粋な基礎研究のみならず、地域に根づいた形で実践的な研究が行われており、そこに学生が関わっています。教授職が極めて少ないという点もドイツの大学の大きな特徴です。大学において教授が持つ権限が日本とは格段に違い、責任も重くなります。当然、その職に就く人の資質・能力が厳しく問われます。大学がユニバーサル化し、規制緩和に伴い様々なニーズに対応した多様な学位プログラムが生まれるなか、これまで大学が重視してきた理念が共有され、教育の質が担保できているのも、教授の数が限られていることが背リクルート カレッジマネジメント221 / Mar. - Apr. 2020州単位で大学・研究機関・企業が連携少ない教授職と中等教育段階での準備教育高等教育機関 Hochschulen in Deutschland394種類 総合大学 Universitäten121 専門大学 Fachhochschulen216 芸術大学 Kunst-unt Musikhochschulen57設置形態 州立   staatliche Hochschulen240 私立   private115 教会立  kirchliche39ドイツの高等教育に関する基礎データ(出典:大学学長会議(HRK) Hochschulen in Zahlen 2019)<高等教育機関数><高等教育の学生数> 学生数合計290万人  総合大学  Universitäten178万人  専門大学  Fachhochschulen105万人  芸術大学   Kunst-unt Musikhochschulen3万6483人

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