カレッジマネジメント221号
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51リクルート カレッジマネジメント221 / Mar. - Apr. 2020また、日本では目標だけでなく、具体的な取り組みも中期計画として文部科学大臣の承認を得る必要がありますが、ドイツの業績協定では目標を約定するだけで、如何にその目標を達成するかは大学の裁量に委ねられます。また、将来構想として大学がどの領域や機能を強化するかについて、日本の場合、国の関与が少なくありませんが、ドイツの場合は、州全体の学術グランドデザインのなかで、各大学が個性化を模索します。運営費交付金についても、日本では予算額も配分法も年度ごとに変動しますが、ドイツの場合、3年から5年の予算期間中は固定されます。ですから、計画的な財務運営が可能です。交付金の配分や事後評価にあたって、日本では数値指標が重視され、多用される傾向にありますが、ドイツの場合は、指標に過度に依存することの副作用も考慮し、アウトプット指標は少数に絞り込んでいます。ドイツの大学では、業績協定が戦略的経営の鍵にもなっていると考えています。州政府と大学の間での業績協定で約定した目標は、本部-学部間で結ばれる学内業績協定に反映されるのが通例です。こうして目標設定において本部は学部と意思疎通を行い、目標達成に向けて、大学の戦略を全学的に貫徹します。日本では近年、学長のリーダーシップが強く求められています。本部と学部の関係については、日独でさほどの違いはなさそうです。ドイツの学長にも強制権はなく、学内を動かすには説得力しかありません。ただ、説得を可能にする仕組みは日本より整っています。その一つが、学長や副学長を補佐するスタッフです。博士の学位を持った比較的若い学術マネジャーが専任で学長や副学長を支えます。日本でいえば事務系職員に相当しますが、日本の大学職員と比べて役割も求められる能力も専門化しており、キャリアパスも異なります。事務総長や学部の事務長にも、日本でよりも大きな権限と責任が課されていますが、高度の経営能力と、長い在職期間から来る豊富な経験でこれに当たっています。注目すべきなのは学内統制・監査の体制を持つ大学が多いという点です。例えば、ハイデルベルク大学にはハイクォリティheiQUALITY制度とよばれる、学内認証評価があります。ここでは、学長直属の質管理部門が軸になって、学内の学位プログラムに対して7段階の厳格な評価を行います。ドイツでは、学位プログラムを単位とする大学運営が徹底しています。その新陳代謝こそが、教育の質保証だという考えです。実際、ドイツ全土で2014年から5年間に約2万の学位プログラムのうち1割に相当する2千が廃止されています。学内での厳格な質保証が新陳代謝を促しているのです。最後に指摘したいのは、大学の経営能力強化を支援する体制です。大学職員用に実践的な学位プログラムを開講する大学や、大学や教育省向けのコンサルティング、職員向け研修ワークショップを提供する団体などがいくつもあります。このような助言・支援や人材育成の体制が大学経営を支えています。当機構を含めて、日本もこのような機能を強化していく必要があると考えています。もっとも、ドイツの大学も万事うまく行っているわけではありません。その点は、われわれとしては冷静に見ておく必要があるでしょう。●ベルリンの街を歩くと、各国大使館に混じって各州の大使館を目にする。ドイツのStaatが州より国に近いものであることを実感する。この点だけとっても諸外国との比較研究が如何に難しいか理解できる。米国で有効とされる手法を並べて、改革を促す動きが強まる一方で、研究と教育の統一に象徴されるフンボルト理念の一面のみを主張して、変革を拒む体質が根強く残る。極端な対比かもしれないが、俯瞰的な視野を持ち、より大きな文脈で制度や事象を捉え、現実に向き合いながら本当に必要な改革とは何かを追求し続ける姿勢こそ、いま求められている。【参考文献】竹中 亨「大学教育の内部統制・監査」川口昭彦編著『内部質保証と外部質保証−社会に開かれた大学教育をめざして』(第2部第3章)ぎょうせい、2020年1月予定竹中 亨『ドイツ大学教育の質保証−プログラム認証からシステム認証へ』同上(第3部第2章)吉川 裕美子『ドイツの高等教育における職業教育と学位』『高等教育における職業教育と学位』(第5章)大学改革支援・学位授与機構、2016年8月(https://niadqe.jp/wp/wp-content/uploads/2018/02/c002-1608-syokugyo.pdf)高度な専門能力のスタッフと厳格な学内質管理

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