カレッジマネジメント221号
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6本号がお手元に届く頃、世の中は卒業式の季節を迎えているはずである。私は1980年のこの時期に、学部を出て博士前期課程に進学した。学士号取得から今年でちょうど40年。あらためて記すまでもなく、その間に日本の大学をめぐる諸状況は劇的に変わった。1976年から1980年の5年間に26〜27%(男39〜40%、女12〜13%)だった大学(学部)進学率は、文部科学省が昨年の12月25日に公表した2019年度学校基本調査の結果によれば、過去最高の53.7%(男56.6%、女50.7%)まで上がっている。変化したのは、高等教育界だけではない。世界はそれ以上に目まぐるしく動きつつある。今後到来する予測困難な時代に求められるのは、卒業してからも自律的な学修者として学び続けることのできる人である。高等教育改革の実現すべき方向性として、「学修者本位の教育の実現」を謳った「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(2018年11月26日中央教育審議会)は、このような国内外の情勢を背景に、過去の42の答申の内容を踏まえて取りまとめられた。このグランドデザイン答申の最終章において今後の検討課題とされたのが、「教学マネジメントに係る指針の策定」と「学修成果の可視化と情報公表の在り方に関する検討を行うこと」である。これを受け中央教育審議会大学分科会に設置された「教学マネジメント特別委員会」(以下特別委)が2018年12月から1年間にわたる検討を経て策定した指針案は、2020年1月22日の大学分科会で審議され、然るべき修正を経て公表の運びとなった。委員19名中7名がいわゆる皆勤賞、全体的な平均出席率も90%とこの種の委員会としては記録的な参加を得た特別委の議事録には、成案に至るまでの検討経過がつぶさに記されているので、指針全文とともにぜひご一読をお願いしたい※1。本稿では、まず座長として特別委で展開された議論を振り返り、本指針の概要を紹介したうえで、期待される活用方法、今後の課題を述べる。学修者本位の教育を実現するには、教員志向から学生志向への方向転換が不可欠であり、大学全体が一つのシステムとして教学マネジメントという考え方を確立しなければならない。教学マネジメントは「グランドデザイン答申」用語解説において、「大学がその教育目的を達成するために行う管理運営」と定義されている。その内容は多岐にわたり得るが、第1、2回の議論の推移を受け、2019年2月に開催された第3回では、「議論の進め方について」と題する文書(第3回配布資料2、通称「日比谷メモ」(8ページ参照))を配布して特別委の役割を明確化すると同時に、議論の範囲を「グランドデザイン答申」で「今後の検討課題」として掲げられた前述の二点に絞ることをあらためて確認した。もう一つの検討事項とされた「設置基準等の質保証システムについて見直しを行うこと」(設置認可や認証評価などの改善、現在の設置基準の見直しなど)は、大学分科会に新規の部会を設ける方向が既に示されている。教学マネジメントは大学教育の質保証と密接に関わっている。これまでにも多数の提言が出され、様々な改善努力がリクルート カレッジマネジメント221 / Mar. - Apr. 2020寄 稿自律的な学修者育成に向けて各大学が理念を踏まえ、自らの責任において、実情に合った形で構築国際基督教大学 学長日比谷 潤子教学マネジメントが目指すもの──学修者本位の教育を実現するために
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