カレッジマネジメント221号
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7あり一定の成果も認められるものの、真剣に取り組む大学と不十分な大学に二極化しているという指摘は看過できない。当然のことながら、教学マネジメントは各大学がその理念を踏まえ、自らの責任において、またそれぞれの実情に合った形で構築していくのが本来の姿である。従って本指針は、全ての大学を何らかの型にはめようとするものではないし、その通りに実行すれば事足りる「マニュアル」でもない。大学の二極化が懸念される状況の中で、しっかりした内部質保証の仕組みを有し継続的な検証・改革を続けている機関には、これまでの取り組みを着実に進めていくことが期待される。一方で、改革の方向が必ずしも適切とは判断されない、あるいは満足のいく結果が得られていない機関には、特別委(最終的には大学分科会)が質保証のために確実な実施が必要と考える取り組みや留意点等が盛り込まれた本指針を参照のうえ、主体的な質保証の営みにつなげて頂きたい。2019年6月から7月にかけて朝日新聞と河合塾が全国の国公私立761大学を対象に実施した共同調査「ひらく 日本の大学」には、「文科省が教学マネジメント指針を作ることをどのように考えるか」との問いが含まれていた。683大学学長の回答を見ると、「賛成」が13%、「どちらかといえば賛成」が41%、「どちらかといえば反対」が19%、「反対」が4%、「わからない・未回答」が24%だった。全12回の特別委中、第5回終了直後から第6、7回開催時にかけてという実施時期を考慮すれば、「わからない・未回答」がほぼ4分の1を占めたのは無理からぬところであろう。「反対」、「どちらかといえば反対」も約4分の1となったが、その背景には「文科省がまた新しいことを言ってきた」、「面倒な作業を強いられ、さらに負担が増すに違いない」、「今後の補助金政策に利用されるのではないか」といった不安があるものと推察される。三番目については、特別委の議論においても「指針を補助金に結び付けるのは不適切」との指摘があった。上述のように、本指針は全ての大学が学修者本位の教育を実現していくための建設的な提案であり、その意図をご理解頂きたい。教学マネジメントの構築は、いわゆる「3ポリ」、即ち卒業認定・学位授与の方針(DP)、教育課程編成・実施の方針(CP)、入学者受入れの方針(AP)から始まる。このうちで最も大いなるものは、DPである。国際基督教大学学長としては、新約聖書の一節「このように、いつまでも存続するのは、信仰と希望と愛と、この三つである。このうちで最も大いなるものは、愛である。」(コリント人への第一の手紙第13章13節)の表現を借りて、DPの重要性を強調したい。大学の理念を踏まえて策定されたDPは、各大学の個性を最大限に生かすような教学マネジメントのあり方につながっていくはずである。指針は、本文(はじめに、Ⅰ〜Ⅴ、おわりに)、その別紙、概要、要旨から構成されている。「Ⅰ「三つの方針」を通じた学修目標の具体化」に明記されている通り、DPは学生の学修目標及び卒業生に最低限備わっている能力の保証として機能するよう、各大学の強みや特色を生かして設定する。具体的かつ明確なDPなしに、体系的・組織的な「Ⅱ授業科目・教育課程の編成・実施」はできない。「Ⅲ学修成果・教育成果の把握・可視化」は、何よりも学修の主体である学生自身が成果を自覚し、エビデンスとともに説明できるようにするために必要である。この営為は、大学が教育を改善する際の大前提となる現状認識にも資する。DPは「Ⅳ教学マネジメントを支える基盤(FD・SDの高度化、教学IR体制の確立)」の観点からも重要で、FD・SD活動は学修目標に照らして望ましい教職員像を定義するところから始まる。一方、教学IRは教学マネジネントの基礎となる情報収集手段として機能する。最後に、成果に関する「Ⅴ情報公表」は、大学に直接関係する人々への説明責任に加え、教育の充実のためにも不可欠である。指針では、これら5つのプロセスを大学全体・学位プログラム・授業科目の3つのレベルに分けて解説した。また、Ⅲについては別紙1、2で、Ⅴについては別紙3で項目を整理して対応している※2。どちらも (1)大学の教育活動に伴う基本的な情報であって全ての大学において収集可能と考えられるもの、(2)教学マネジメントを確立する上で各大学の判断の下で収集することが想定される情報に二分し、後者は (1)と(2)を、さらに①『卒業認定・学位授与の方針』に定められた学修目標の達成状況を明らかにするための学修成果・教育成果に関する情報の例と、②学修成果・教育成果を保証する条件に関する情報の例に分けて、具体例を詳細に示した。リクルート カレッジマネジメント221 / Mar. - Apr. 20205つのプロセスを大学全体・学位プログラム・授業科目の3つのレベルに分けて解説特集 教学マネジメント

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