カレッジマネジメント222号
10/58

10リクルート カレッジマネジメント222 / May - Jun. 2020ポーラス(多孔的)という、周囲の環境に対して極めて開放的な状況が、人が集まる建築・環境として集客力を持つと実証したのが、2009年に設計した新広島市民球場「マツダスタジアム」です。マツダスタジアムは、ポーラスをはじめ遊環構造の7つの条件を漏れなく当てはめた設計で、こどもの成育環境の研究とデザインによって造り出された球場といっても過言ではありません。今までの野球場は穴の空いていない閉鎖的な空間でした。入場料を払った人しか見られない。私はそういう従来型のスタジアムを造りたくはありませんでした。こどもは覗き見が大好きです。だから球場の壁に無数の穴を開けて、外から覗き見できる開放的な野球場を造りたかった。スタジアムの3塁側はJRの線路に面していて、広島駅を発着する新幹線や在来線の乗客が11秒間グラウンドを見ることができます。スタジアム設計だけが理由ではないかもしれませんが、広島東洋カープはカープ女子を筆頭に多くのファンを獲得し、選手の人気も向上、動員数や優勝という球団成績で結果が示されました。あるスポーツ評論家が「スタジアムがチームを強くした。優勝はスタジアムのおかげだ」と評したと聞きます。設計者として大学を支援する立場から言うと、外部からの新しい提案を受け入れるには、大学組織にも新しい感性を持つ人材が必要です。AIUでも触れましたが、新しい提案を評価する側が重要なのです。新しい提案をすると大抵言われるのが、「それは前例がありますか」です。「これが最初です」と答えると、大抵はダメです。前例がないものにチャレンジする文化が日本には育っていないことが問題です。イノベーティブが社会的にも求められる中、日本初の新しい考え方で何かを行うというところに変えていかなければいけません。改良改善も重要な変革ではあるのだけれど、全く新しいアイデアで作り上げるリスクを負う必要がある。予測不可能な将来、答えのない課題を解決する人材を育てる必要がある大学だからこそ、変わってほしいところです。日本の国公立大学の発注は公共発注と言われ、価格競争入札が原則とされています。税金で何かを購入する際は、同じ品質でも金額が安いほうが入札されるという考え方です。これがファシリティ設計においても暗黙のルールとなっています。新築の場合にはプロポーザル形式が多いのですが、小さな改修設計では、入札もあると聞いています。知的生産行為を金額だけで評価するのは非常に問題で、これを変えなくてはいけないとずっと言ってきました。日本学術会議から出した提言でも、公開コンペや公開プロポーザル等、より多くの人に関心を持ってもらう設計等発注システムにすべきと述べています。良いものにはお金がかかるというのではなく、いかにお金をかけないで良いものを作るか、アイデアそのもので競争するシステムにしていかないといけないということです。AIUも公立大学で予算が厳しい中、いかにコストパフォーマンスを上げていくかが課題でしたが、図書館は建設費10億円で造ることができました。広島市民球場も、既存の場所に球場を造ると250億円かかると言われていたのを、今の駅裏の地を選ぶことで90億円に抑えられました。穴の開いている球場の防音対策も指摘されましたが、オープンしてから考えることにしました。結果的にはクレームは一切ありません。事前にあまりにもクレーム対策を考えすぎると、イニシャルコストが高くなる傾キャンパス整備で大学に期待すること知的生産行為の価値を評価する新しい設計発注システム新しい提案を評価し、受け入れる人材がいること(撮影:藤塚光政)開放的な作りが特徴の広島市民球場「MAZDA ZOOM-ZOOMスタジアム広島」

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る