カレッジマネジメント222号
11/58

11リクルート カレッジマネジメント222 / May - Jun. 2020向があります。もともと平和記念公園の近くにある広島復興のシンボルだった球場を、駅裏に移すことには市民から反対が多く、あの場所でこんなに成功するとは、誰も予想していませんでした。日本はどちらかというと、全部出来上がってからグランドオープンですが、私は走りながら考えます。大学のキャンパス整備も、CMPを一気に実現するのはリスクが高いので、一つひとつ造りながら、それがどういう風に使われているのかを見定めて対応していくほうが、安価で良い環境を作ることにつながると考えています。少ない予算でいかに良い環境を作っていくか、アイデアをみんなで考えていくことが重要です。現状にある問題点をどうすべきかと考える人を大学がたくさん輩出することが、次の時代の社会を改善していくことになるのだと思います。社会に開かれた大学になるためには、知の拠点として、地域とさらなる連携を図る必要があります。例えば、産業界との間では、PBL、共同研究、インターンシップ等の教育連携がありますし、地域住民との間ではリカレントの場や地域の防災拠点の役割もあるでしょう。そのためには、大学の成果や歴史性、地域性を発信する場をもっとキャンパスに増やして、地域の理解を得ることです。さらにキャンパスの施設や空間を地域に開放して、利用してもらうことが、地域におけるキャンパスの価値を高めることにもなるのです。地域にとっても、大学があることはとても重要です。若者が活気をもたらすだけでなく、良い学生を社会や企業に沢山送り出すことで、地域が活性化します。例えば、秋田ノーザンハピネッツの創業者は、東京出身のAIUの1期生です。秋田県では無理と言われていた初のプロバスケットボールチームの立ち上げを成功させています。大学が優秀な人材を輩出することは、そのまま地域の将来へとつながっていくのです。最後に、キャンパス整備は非常に莫大なお金がかかる中で、お金をかけた甲斐があったのかどうかを大学の職員は問われます。大学教育の質保証や可視化同様、教育効果がエビデンスとして明確に出るといいのですが、短時間では得られにくく、悩ましい問題です。マツダスタジアムはエビデンスが出やすかったと言えます。広島の地元のシンクタンクが、広島東洋カープと広島市民球場が7年間、毎年200億円の経済効果を出していると発表し、大きな話題を呼びました。止まっていた駅周辺の再開発も動き出し、「中国・四国地方で経済的に一番元気なのはこのエリア」と言われるまでになりました。できた施設が成功かどうか、可視化が非常に難しい中で、大学のキャンパス整備を評価・フィードバックし、将来にうまく発展する形にしていくには、キャンパス整備のための評価システムを確立することが必要です。それには、学内の自己評価と外部の第三者評価の活用が考えられます。学内の自己評価は、施設部等の事務局や建築分野の専門家に任されていましたが、例えば教育学や心理学の教員等、学内人的資源を活用し、例えば交流が増えたか、イノベーションや学際的研究は生まれたか等、教育効果を多面的に評価することが求められます。そして、外部の第三者評価システムについては、評価項目に、キャンパスデザインの評価の視点を入れて頂きたく、こちらも日本学術会議の提言に盛り込みました。このような評価システムを構築し、効果を可視化することが、キャンパス整備の構成員のパフォーマンスを向上させるためにも重要だと言えるでしょう。(文 能地泰代)社会に開かれた大学キャンパス大学キャンパス整備の評価システム確立特集 教育改革を実現するキャンパス戦略遊環構造を用いたゆうゆうのもり幼保園(撮影:藤塚光政)

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る