カレッジマネジメント222号
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18リクルート カレッジマネジメント222 / May - Jun. 2020早く3Dプリンタを導入すると、研究室内で形にして触りながら変える、早いスパンでの改良も可能になった。デジタルとフィジカルをダイレクトに結合する創造性こそがファブの本質だ。2010年頃までには、各研究室でデジタルと物質の研究が一斉に始まり、研究室単位でなく、キャンパス全体に横断する環境を整備しようと、2016年にファブキャンパス委員会を立ち上げた。環境を用意すれば、学生は躊躇なく使ってくれる。「新しいデジタル技術に関して、教員より若者のほうが詳しいのはよくある話。大人が知っていることしか子どもにやらせないっていう教育は極めてまずい」と語るのは田中教授だ。学生が教員の先を行くことをむしろ喜びとするSFCのカルチャーが根底にある。とはいえ、FAB機器をニーズ別に、①入門、②発展、③大型の3つのレイヤーで整理し、キャンパス内に配置したのには狙いがある(右ページ参照)。「入門でまずは触ってみることでユーザーが育ち、もっとやってみたくなって勉強して、研究にもつなげていく。3段階のレイヤーは、そのように育ってほしいという僕らのメッセージ。その流れが実際にうまく回っている」(高汐一紀教授)。開設当初から“実験キャンパス”を標榜してきたSFC。実験とは新しいチャレンジであり、育てたい人材像も「実験空間に参加でき、卒業してもその実験を続けてくれる学生」と明快だ。SFCでは「デジタルメディアは創造のパートナー」というポリシーのもと、キャンパスマスタープランが描かれた30年前に、キャンパスの中心地にメディアセンターを配置。インターネット、バイオ、脳科学と研究テーマが移りゆく中、「今の時代における実験と未来を開拓するテーマは何か」を5年前に議論したのが、ファブキャンパスのきっかけだった。ファブ(FAB)とはファブリケーションの略で、デジタル工作機械による成型技術を指す。デジタルが対象とするのは、衣食住やロボット、電気自動車等、実はアナログな物質(フィジカル)だ。例えばロボットなら、研究開発でデジタルデータを駆使しても、最後の試作品は専門業者からの納品を待つ必要があった。しかしテクノロジーが向上し、田中浩也教授がいち石川 初 教授田中浩也 教授高汐一紀 教授問題発見・解決の視点を涵養KEYWORD1志願者数の推移05001000150020002500201920182017201620152014201320122011201020091,4668,4747,6187,8997,4417,6527,5318,1698,4608,8208,8749,1951,1611,0981,0521,1711,2011,3431,5331,6891,9942,269(人)(人)(年度)0200040006000800010000AO(左軸)志願者数合計(右軸)慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC) ファブキャンパスキャンパス全体がデジタルメディアを検証する巨大な教育実験場実験キャンパスの未来を拓く「FAB」3つのレイヤーで主体的な学びを喚起

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