カレッジマネジメント222号
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45によるコンペティションにするべきではないでしょうか。日本ではまだレクチャー、ノート、試験の繰り返しという伝統的教育方法が残っていて、初等教育の段階から受験に対応する能力が培われています。アメリカではディスカッションを中心とした授業形式によって、クリティカル・シンキングやコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力を身につけます。こういった能力の育成には、日本の大学のような1コマ90分という短い時間は不十分だと思っています。アメリカは1コマ180分で、その授業に参加する前に十分に学習をしてくることが前提。その授業にどのように参加しているかが成績として評価されます。また、BlackboardやCanvas等のITプラットフォームの活用による学習支援も日本より進んでいます。また、アメリカでは教員に対する厳しい評価があります。私は横浜市立大学の学長になった際に、教員評価を導入し厳しい批判も受けましたが、きちんと教員を評価して問題を見極めた上で、必要なFDを受けてそれを解決することは、教員自身のために大切なことだと思います。かつては同じ大学から教員が採用されていましたが、最近は他の大学から採用したり、海外から採用するようになっています。このような教員の採用の状況に比べ、学長や副学長の選考方法についてはあまり変わっていないと思います。学内に新しい空気が入ることで、多様性が生まれ、改革の意識が醸成されるためにも、「外の人」を公募すべきだと考えます。アメリカと日本の大学の実力を比較する際に、上位数パーセントの有名大学が注目されがちですが、本来は多くの中規模の大学を比べて見るべきだと思います。そしてアメリカと日本の中規模大学の実力を比べた時、日本の大学は圧倒的に負けていると感じています。私は以前、マサチューセッツ州のベッカーカレッジにおいて、COOとプロボストとして大学の教育と設備、予算等全ての責任を負っていました。マサチューセッツには多くの大学があり、私立大学は85大学、州立大学は短期大学も含めて29大学。加えて周辺のニューハンプシャー州、メイン州、ニューヨーク州等にも大学が多数存在します。そのなかで生き残るために教育内容を磨き、学生を集め、競争に勝ち続けなければなりません。私自身も学部は中規模大学でしたが、卒業後に入学したハーバードの大学院で全く遜色がないことを実感しました。アメリカの大学は州立でも私立でも、学生を獲得し自力で予算を獲得しなければ大学は存在できないというフェアな競争にさらされ続けてきたという背景があります。そしてこれから日本の中規模・小規模大学も、そういった競争に向き合わなければならないのです。競争にさらされる大学が生き残るためにすべきこととしては、2つのテーマがあると私は思います。一つは地域貢献。中小企業の支援や産学連携等を通じた地域貢献。もう一つはAIに関する教育研究です。AIの基礎的な教育研究については必要性があるが、会社はそのコストを払わない。大学がそれを担うのがよいのではないかと思います。日本は改革に時間をかけすぎていると言いましたが、一方で、認識が揃えばみんな揃って一斉にやる、それが日本の社会の特徴だと思っています。だからこそ、「いつかやる」ではなく、クライシスに入る前の今こそやるべきだと私は考えています。リクルート カレッジマネジメント222 / May - Jun. 2020評価することで教員の力を高めるトップ層には外部の人材の活用を地域貢献やAI教育等、クライシスの状況になる前に行動を強化するテーマはある競争にさらされ続けるアメリカの中規模大学INTERVIEW

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