カレッジマネジメント222号
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57リクルート カレッジマネジメント222 / May - Jun. 2020その指示や指導が適正な範囲を超え、エスカレートすることでパワハラ問題が生じることになる。前出の報告書によると、パワハラの発生要因には、労働者個人の問題と職場環境の問題があり、前者のうち行為者については、感情をコントロールする能力やコミュニケーション能力の不足、精神論偏重や完璧主義等の固定的な価値観、世代間ギャップ等の多様性への理解の欠如等があるとされている。また、パワハラの受け手となる労働者にも、社会的ルールやマナーを欠いた言動が見られるのではないかとの見方が示されている。後者の職場環境の問題としては、労働者同士のコミュニケーションの希薄化、行為者となる労働者に大きなプレッシャーやストレスをかける業績偏重の評価制度や長時間労働、不公平感を生み出す雇用形態、不適切な作業環境などが挙げられている。社会・経済環境の急速な変化を背景に、組織が対処すべき課題は増加し、それぞれの難度も高まる。組織内においては、若手の能力・態度、中堅層の成長、中高年の意欲など人事管理上の問題が重くのしかかる。表面化するか否かは別にして、パワハラ問題を発生させるリスクは高まる傾向にある。大学も同様であるが、これらの状況に大学特有の構造的問題が加わる。さらに、マネジメントの仕組みやそれを担う人材育成システムが未成熟または整備途上であることを考え合わせると、問題はより深刻といえる。18歳人口の減少はもっぱら学生確保の観点を中心に論じられがちだが、様々な業種や職種、企業や団体による人材確保をめぐる競争が激化することをも意味する。教員か職員かを問わず、大学は働きがいのある職場として今後も選ばれ続けるのだろうか。個々の大学の将来に関わるだけでなく、わが国の教育力や研究力をも左右しかねない重大な問題である。法人や大学のトップはそのことを強く心に留めて、健全で活力ある職場づくりの先頭に立たなければならない。そのためにもトップ自らがこの問題の本質を理解し、ハラスメントのない職場の実現に向けた強いメッセージを発するとともに、繰り返しその重要性を説き続ける必要がある。ハラスメントのない、健全で活力ある職場とはどのような状態を指すのであろうか。このことに有益な視点を提供してくれるのが「ワーク・エンゲイジメント(Work Engagement)」である。オランダ・ユトレヒト大学のSchaufeli教授らによって確立された概念であり、「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる。ワーク・エンゲイジメントは、特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知である」(島津2014)と定義されている。近年、研究も蓄積され、実務への応用も進みつつある。厚生労働省「令和元年版労働経済の分析」では、第Ⅱ部第3章「働きがいをもって働くことのできる環境の実現に向けて」において、この概念を活用した分析が紹介されている。その中では、ワーク・エンゲイジメントの向上が労働生産性の向上や働く者の健康増進につながる可能性が示されている。また、職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化、労働時間の短縮や働き方の柔軟化、業務遂行に伴う裁量権等の雇用管理の実施率の高さとワーク・エンゲイジメント・スコアとの間に正の相関がある可能性も指摘されている。ハラスメントの発生を防ぐことも、個々人が働きがいを感じながら、協働して新たな価値を生み出していくことも、職場の健全性が保たれてこそ実現できるものである。この機会に大学の様々な職場に目を向け、そこで働く人々の声に耳を傾けてほしいと思う。【参考文献】〜 手軽に読める関連文書・書籍厚生労働省ハラスメント防止対策強化に関するリーフレットhttps://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000596904.pdf大和田敢太(2018)『職場のハラスメント』中公新書岡田康子・稲尾和泉(2018)『パワーハラスメント<第2版>』日経文庫島津明人(2014)『ワーク・エンゲイジメント』労働調査会松﨑一葉(2017)『クラッシャー上司』PHP文庫大学は選ばれる職場であり続けられるだろうかワーク・エンゲイジメントを如何に高めるか
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