カレッジマネジメント222号
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6日本の大学のキャンパスを見ると、これまでは大学進学者が増加してきたので、必要性が発生する都度、校舎・研究棟を空いた敷地に無秩序に増設してきた傾向があります。その結果、全体的なまとまりのない、迷路のようなキャンパスが形成されることになりました。なぜこのような現状になったかというと、日本ではランドスケープの概念が浸透しておらず、キャンパスを長期的・俯瞰的に見る視点が欠けているためです。このため、教育・研究機能の充実が優先され、キャンパス全体のデザインや環境整備は後回しにされてきました。私自身、東工大時代は、研究室に企業の方がたどり着けないことが多く、「大学はもっと社会に開かれていなければならない」と、常々危機感を持っていました。社会に開かれたキャンパスになるためには、多くの人が使いやすいバリアフリーデザインや、多言語表記等も含めたユニバーサルデザインも必要です。そして何より、学生、教職員、地域の方々の休息や交流を促すためには、広場や庭園等の魅力的な外部空間と共有スペースが重要です。私の専門はもともと、こどもの成育環境の研究とデザインです。人が育つ成育環境において重要なのは、教育に携わる人の力だけではなく、場の力、空間の力も大きいと考えています。物理的な校舎だけでなく、大学生や研究者が、もっと知的な活動ができ、楽しく交流できる環境にしていかなければ、優秀な人材は集まりません。高等教育機関のキャンパスにこそ、「知的創造」と「交流活動」を喚起する環境が必要なのです。今後は学生数が減少する中で、地域連携や施設の減築や再利用も考慮して、キャンパスの再整備を行う必要性があります。グローバル化の中、欧米や特にアジアの大学の国際化推進は目覚ましいものがあります。今後、我が国の大学キャンパスの国際競争力の観点から見ても、多くの留学生が日本のキャンパスに来た時、ここで学びたい、研究したいと思えるような空間的環境を整えていなければ、日本の大学教育そのものが生き残れないことにもなりかねません。こうした考えから、日本学術会議において、建築系、土木系、造園系といった様々な分野の先生方に集まって頂き、「土木工学・建築学委員会 知的創造と活動を喚起する環境としての大学等キャンパスに関する検討分科会」を立ち上げました。その審議結果を取りまとめた提言『我が国の大学等キャンパスデザインとその整備システムの改善にむけて』を、2017年9月に発表しました。提言では、①キャンパスデザインの改善、②キャンパス整備リクルート カレッジマネジメント222 / May - Jun. 2020日本の大学キャンパスの現状と課題提言のポイント環境建築家・環境デザイン研究所会長仙田 満知の拠点としてシンボリックで国際競争力のある大学キャンパス整備を巻頭東京工業大学工学博士。1968年環境デザイン研究所を設立。日本建築学会会長、日本建築家協会会長、日本学術会議会員、こども環境学会会長等を歴任。現在、東京工業大学名誉教授、こども環境学会代表理事、NPO法人建築文化継承機構代表理事、NPO法人まちづくりNEXT代表理事。代表作品は東京辰巳国際水泳場、茨城県自然博物館、愛知県児童総合センター、京都アクアリーナ、ゆうゆうのもり幼保園、慶應義塾日吉キャンパス協生館、国際教養大学図書館棟、新広島市民球場、南小国町役場等。毎日デザイン賞(1978年)、BCS賞(1987、2011年)、日本造園学会作品賞(1996年)、日本建築学会作品賞(1997年)、IAKS(国際スポーツ施設協会)金賞(2001、2011年)銀賞(1997、2005、2009年)、IAA(国際建築アカデミー)グランプリ(2003年)、国際建築賞(2007、2008、2010年)、日本建築家協会賞(2010、2011年)、アルカシア建築賞ゴールドメダル(2010年)、村野藤吾賞(2011年)、日本建築学会大賞(2013年)他、受賞多数。

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