カレッジマネジメント222号
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8リクルート カレッジマネジメント222 / May - Jun. 2020冒頭で日本にはランドスケープの概念が浸透していないと述べました。キャンパス整備でも、敷地や建物の規模に余裕のある国立大学ですら、ファシリティというと校舎のことしか考えておらず、建築家を中心に進められてきました。しかし海外では、まずはランドスケープアーキテクトが、全体計画から広場やモール、緑地等のオープンスペースを決めて、建築家は後から入ります。日本は建築家が先に建物を建て、ランドスケープは外構扱いと、優先順位が低いのです。ランドスケープアーキテクトを職能とする人の数も、建築家に比べ圧倒的に少ないのが実情です。なぜかというと、日本は明治維新から西洋化の中で、生産性の高いファシリティや構造仕様を追求する建築のほうが先行してしまい、ダイレクトに生産しない広場や緑地などの環境価値は、どうしても後に置かれてきたわけです。平野が少なく十分な敷地が確保できないという国土的な背景もあります。しかし、そこで生活する人の活力や意欲に関係するのは、やはり緑や環境といった外部空間です。我が国のキャンパスにおけるランドスケープデザインの認識の乏しさを改善し、コモンスペースに対する価値を改めるためにも、ランドスケープアーキテクト領域をCMPに入れる必要があります。大学の主体は学生であるにもかかわらず、彼らの意見や考えがキャンパス整備に反映された事例は少ないといえます。大学教育を主体的な学びに転換しようとしている今、アクティブラーニング等、新しい教育法を実際に体感している学生の意見をもっと聞くべきです。学生は4年間という長い時間をキャンパスで過ごし、思い入れを持って社会に出ていくのです。生活・学習環境において、教職員や計画者が気づかない視点を持っているかもしれない学生を、積極的にキャンパス整備に参加させるべきでしょう。高等教育機関のキャンパスには、「知的創造」と「交流活動」を喚起する環境が必要だと述べました。ここからは知的創造に関する私の考えと、実践例をご紹介します。私の研究テーマに、“歩行線形”という考えがあります。例えば、エジソンやベートーベンは、町中を歩きながらアイデアや曲想を得ていました。人は歩きながら考え事をしたりアイデアを練ったりします。その時に、考え事を妨げないような、知的創造を喚起する歩行の形があるのではないかと考えました。建築家はとかく、外構も道も直線に造りたがります。でも、考え事をしているときに直角に曲がれるでしょうか。大学のキャンパスこそ、気持ちや創造性を喚起し、思考を遮断しない、ストレスを与えない環境を作ることが必要なのではないかというのが、私の中の1つのベースになっています。具体的には、キャンパスモール、園路、大小の広場、図書館等のコモンスペースに応用できると思います。実際に私が設計を手掛けたファシリティに、国際教養大学(以下、AIU)の中嶋記念図書館があります。建築計画的に、図書館は平面が常識と考えられています。しかし、中嶋嶺雄初代学長からは、「いつでも勉強できる場をランドスケープデザインの専門家を参加させる学生の積極的参加、参画の促進知的創造を生む設計とは教育理念を具現化するファシリティデザイン大学のキャンパスデザインのあるべき方向性(実践編)AIUキャンパス全景(提供:国際教養大学)AIU中嶋記念図書館(撮影:藤塚光政)

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