カレッジマネジメント222号
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9リクルート カレッジマネジメント222 / May - Jun. 2020提供したい」と、24時間365日開館する図書館との要望がありました。そんな新しい教育理念に馴染む空間に平面はそぐわない。私は「本のコロセウム」をテーマに、「本と人との出会いの場となる劇場空間」というコンセプトを提案しました。学生たちが本と向き合い、勉学に打ち込む「知の闘技場」では、秋田杉をふんだんに使った傘型屋根の下に、立体的な半円形状の階段状書架と読書テーブルが並びます。本に囲まれ、本を読む幸せが実感できる空間は、学生からも「空間が本を読みたいという気持ちにさせる」という声をよく聞きました。本は知的好奇心を喚起させます。読みたい本や自分の居場所を探索する楽しみ。図書館には教室とは違う独自の空間性、特別性が必要だと私は考えます。発注者がそこで行いたい教育理念を、彼らの想像をはるかに超えた形で具現化するため、私は常に今までの常識とは違った提案をするようにしています。でもそれを受け入れて、評価してくれる人が発注側にいないと実現できません。それがAIUでは中嶋前学長でした。中嶋先生でなくては、あれはできなかったと思います。全授業を英語で行い、1年間の留学必須、徹底した少人数教育、厳しい卒業要件、就職率100%。日本の大学のグローバル化のパイオニアとして言わずと知れたAIUの今日の評価に、多少でもお役に立てたのなら嬉しいです。中嶋記念図書館は、今ではAIUのシンボリック的存在になっています。私はこれまで、自らの専門であるこどもの成育環境の研究とデザインを、数多くの児童施設、スポーツ施設、文化施設の設計に応用してきました。こどものあそびたいという欲求は、学習意欲や運動意欲と共通しています。こどものあそび空間に共通する構造として、以前から私が提唱している理論に、「遊環構造」があります。遊環構造は、意欲を喚起する空間の構造に進化させることができ、こどもだけでなく、誰にも同様に応用できると考えています。遊環構造とは、以下の7つの条件に整理できます(図参照)。①循環機能があること遊環構造の最も重要なファクターは、循環機能です。建築空間に置き換えると廊空間で、廊下が平面的、立体的に循環、回遊しているデザインが、こどものあそびの面白さを高めていきます。②その循環(道)が安全で変化に富んでいること幅や高さ、開放感などの空間の変化を指します。③その中にシンボル性の高い空間、場があることシンボルはその空間の変化の拠点となり、塔的、穴的なものに集約されます。④その循環にめまいを体験できる部分があることめまいとは、アリーナや劇場などのイベント会場において、一体感を体感できる、お祭りのような場に言い換えられます。みんなで盛り上がったり、共感したり、祈ったり、一緒に踊ったりといった共同体験ができる場です。感動やわくわくする心の高まりを感じられる空間と言えます。⑤近道(ショートカット)ができることショートカットは、循環が一様ではなく、いく通りもの経路を選択できることで、あそびには不可欠な要素です。ショートカットは通常と異なる流れが良く、例えばトンネル状や吊り橋等、スリルとめまいを感じるほうがよいでしょう。⑥循環に広場、小さな広場などが取り付いていること広場は休憩空間にもなり、全体の4分の1の距離に最低1つぐらいに配置することで、動きと休みのバランスがうまく取れ、面白い空間になります。⑦全体がポーラスな空間で構成されていることポーラス(多孔質)とは、穴が開いていて、どこからでも入り込め、逃げられる状態にすることで、閉鎖的でない開放的な空間となります。親しみやすく、ちょっと立ち寄るような近づきやすさを空間に与えます。遊環構造の中心的な柱は、回遊性と体験の多様性ですが、大学に転用できる「遊環構造」特集 教育改革を実現するキャンパス戦略

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