カレッジマネジメント223号
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17れを補いAIが学習しやすいデータに整備する必要があります。──そうしたAI人材育成を進める上での課題は、どのようなことがあると言えますか?日本では2018年頃から産学連携を通じたAI人材の輩出に積極的に取り組んでいますが、3つの課題が挙げられます。第一の課題はそれでもAI人材の数が欧米だけではなく、東南アジアと比較しても少ないと言わざるを得ないこと。この課題の解決方法の一つが、リラーニング。つまり、社会人学習の仕組みを作ることだと私は考えています。日本では一つの道を究めて得たスキルは高く評価されますが、1~2年の学習経験ではたとえそれが最先端の知識やスキルであったとしても、なかなかプロとして扱われません。これは日本の美徳でもありますが、その裏側では学び直しを阻害する要因にもなっている。こうした風潮を打破するためにも、企業は数多くの社会人学生を輩出していくべきだと思います。第二の課題は、世界レベルで活躍する人材の層が薄いこと。突破する方法の一つは、学生のうちから世界中の研究者コミュニティやデータサイエンティストコミュニティと常に繋がっておくことです。査読付き国際学会に論文を提出できればもちろん良いのですが、SNSで、世界的な研究者をフォローするだけでも構いません。世界のトップレベルの人達が戦っている世界が見えてくるからです。そこで必要なのが、やはり英語力。世界トップクラスの研究者達が議論する最先端の情報や論文から学べることがたくさんあります。データアナリティクスやAI分野の人材として世界で活躍するためには、英語力を磨くことも欠かせません。さらに、世界の最先端動向を把握するためにはずせないのは、AIのビジネス応用が進んでいる中国の情報です。日本の農場ではドローンが飛び、工場や倉庫ではAGV(無人搬送車)が導入されていますが、中国では街中の配送でそれらを普通に見かけます。上海の駐車場では壁に描かれているQRコードでキャッシュレス決済が完了する仕組みが一般化し、ファッションの世界でもライブコマースの最先端を走っています。第三の課題は、5Gを原動力としたIoTとロボティクスといった先端テクノロジーを活用したビジネス領域におけるAI人材があまり育っていないこと。海外ではIoTやビッグデータを扱う人材やスキルのプラットフォームを構築する戦略的な人材育成が進んでいる国もあります。日本でもビジネスの進展を見据え、国家戦略としてAI人材育成を推進すべきだと考えます。そして、企業はIoTやロボティクスの分野で産学連携による共同研究を増やしていくこと。世界で戦うためには不可欠な投資とも言えるでしょう。──そうしたビジネスを創造できるAI人材を育成するために、大学に期待される教育とは何でしょう。大学をはじめとする高等教育機関に期待することは、様々な国の人達と出会う場になって頂きたい。COVID-19感染症対策において日本は、「Japan Miracle」と世界で評価された。これをきっかけの一つとして、日本の良さが見直されていく可能性があります。ぜひ、世界の学生達が日本で学んでみたいと思うような場となってほしいですね。これまで以上に、世界戦に入っていける人材が輩出できることを期待しています。(取材・文/馬場美由紀、中村仁美 写真/刑部友康)リクルート カレッジマネジメント223 / Jul. - Aug. 2020AIビジネス創造に欠かせないグローバル人材の育成に期待出典:Recommended APEC Data Science & Analytics (DSA) Competencies92特集 AI・データサイエンス教育と大学APECプロジェクト調査によるDSA人材に求められる10のグローバル・コンピテンシーデータ管理及びガバナンス個人情報保護やデータポリシー、データセキュリティー、倫理的配慮を取り入れたデータ管理戦略とガバナンスの策定、実施スキル。3ドメイン知識と応用ドメインに関する知識をデータに応用し、新たなイノベーションを導くスキル。4コンピューティングデータ分析のためのプログラミング言語やソフトウエア、ハードウエアに関するスキル。6データ分析の方法とアルゴリズム意思決定に繋がる洞察を導く、データ分析及び機械学習の方法とアルゴリズムを実装するスキル。7リサーチの手法科学的及び工学的手法を活用して、新しい知識と洞察の発見、創造するスキル。821世紀スキルコラボレーションやコミュニケーション、ストーリーテリング、倫理的思考、組織意識、批判的思考、計画と組織化、問題解決、意思決定、顧客の焦点、柔軟性、ビジネスの基礎、異文化意識、社会的及び社会的意識、起業家精神等のあらゆる場面で求められる横断的スキル。10データサイエンスエンジニアリングの原則ソフトウエアとシステム工学の原則と最新のコンピュータ技術を使用して、データ分析アプリケーションの研究、設計、プロトタイプを作成する技術。9統計手法統計の理論と方法論をデータ分析に適用するスキル。5データ分析のためのオペレーションデータ分析ツールやビジネス・インテリジェンスツールを使用して、意思決定の洞察を導き出き出すスキル。1データの可視化とプレゼンテーション視覚化ツールやプレゼンテーションツールを使用して、データ及び洞察を的確に伝達するスキル。2

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