カレッジマネジメント223号
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19掲げて登場したのが、情報セキュリティ大学院大学(以下、IISEC)である。現実の情報セキュリティの問題解決を担う高度な専門技術者や実務家と、情報セキュリティの将来をリードする研究者を養成し、DXが進む中、社会の信頼と安心を創ることへの貢献をミッションとして、学校法人岩崎学園が2004年に開学した。学部を持たず、修士課程(1年制、2年制)・博士課程からなる大学院のみの大学だ。2年制の修士課程の募集人数は40名、1年制は若干名、博士課程は8名と、規模はさほど大きくはないが、まさに、DX時代の申し子として誕生した大学院大学である。情報セキュリティの必要性は社会的には高まっているが、その教育・研究をするための情報セキュリティ学という学問体系が確立しているかと問われれば、多くの者は首を傾げよう。では、IISECはどのように情報セキュリティの教育・研究を行っているのだろう。後藤厚宏学長は、その経緯について次のように話す。「一般的に言われるサイバーセキュリティとは、文字通り、あくまでもサイバー空間の問題でありインターネットを使用するうえでのセキュリティを考えればよかったのですが、今では、フィジカル空間も含め社会全体のセキュリティという視点が不可欠です。こうなると情報工学をベースにしたいわゆる理系の学問に依拠するだけではだめで、例えば、社会のルールを考える法学、組織のマネジメントを考える経営学、人間の心理を考える心理学等文系の学問も含めた文理融合の総合科学として、情報セキュリティの教育・研究を考えることが必要になります。この考え方が開学当初から本学の柱でしたが、社会生活における情報セキュリティが扱う対象の拡大とともに、多様な学問領域からのアプローチがますます重要になってきました」。情報セキュリティの教育・研究とは、1つのディシプリン(学問体系)を構築し、その精緻化を目的とするというよりは、ある課題に対して多様なディシプリンからアプローチすることで解決を目指すというタイプに属すると言ってよい。いわば、モード論でいうところのモード2型の学問であるが、それが教育プログラムにおいてどのような工夫となって表れているかを見よう。キーワードは、全体の把握と個別の深化である。まず、解くべき課題がどの範囲に拡がっているかという全体を把握する視点を持たねばならない。そのうえで、どの部分を深化させるかを決めてアプローチするのである。図2の博士前期課程の教育プログラムは、全体を把握する「総合学習」と「ハンズオン」、個別の深化のための4つのモデルコースからなる。「総合学習」では必修科目が2科目あり、1科目は、情報セキュリティに関する最新情報を習得するための各界の専門家のリレー講義、もう1科目は、全教員・学生が参加しての、学生の研究発表である。「ハンズオン」は、演習であるが、ここで多様な技術力・実践力を高める。こうした中で情報セキュリティの全貌を把握する視点を涵養する。情報セキュリティが多様な学問からのアプローチを必要とするため、それを大きく4つの領域に分け、それらを軸として専門性を深めるのである。「サイバーセキュリティとガバナンス」では、サイバーセキュリティの先端技術と、攻撃への対処に必要な法体系の学習が中心、「セキュリティ/リスクマネジメント」では、経済学、経営学、心理学等を応用してリスク回避・管理を学ぶ。「システムリクルート カレッジマネジメント223 / Jul. - Aug. 2020図2 4つのモデルコースサイバーセキュリティとガバナンスコース数理科学コースセキュリティ/リスクマネジメントコースシステムデザインコース総合学習マネジメント系技術系総合科学ハンズオン特集 AI・データサイエンス教育と大学情報セキュリティという学問と教育:全体と個別

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