カレッジマネジメント223号
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20リクルート カレッジマネジメント223 / Jul. - Aug. 2020デザイン」では、情報工学を中心にしたシステム技術の学習に特化しており、「数理科学」では、暗号、アルゴリズム、統計等の数理科学からなるプログラムが編成されている。全体の把握と個別の深化がバランス良く配置されている。これらのコースワークを統合するのが、修士論文である。これが学生の成長に果たす役割は大きいと学長は強調する。自らの研究テーマを定め、自分で問いを立て、自力で分析して結論を出すという、修士論文執筆のプロセスを経ることで、学生は与えられたことを学習するという姿勢から、自分で学んで解決する姿勢へと変化するそうだ。確かに、実務の世界は課題を定めそれを自力で解決することの日々である。従って、修士論文とは「研究」を通じて実務で求められる資質や能力を獲得できる仕掛けなのだ。“学生が、ここでの教育・研究を現場に持って帰ることができる”。これが教育のモットーである。後述するが、学生の多くは社会人であり、何らかの形で情報セキュリティに関わる仕事をしている者が多い。そうした学生のニーズは、まずもって、実践的な技術力、課題解決力を高めることにある。前述のフォーマルなカリキュラム以外にも、それを可能とする工夫を各所に見ることができる。その1つが教員構成である。10人の専任教員、16人の兼任教員の大半が、大学以外の民間企業等での職務経験がある。兼任教員は、大学教員等の研究者以外に、企業の経営層、エンジニア、ジャーナリスト、起業家、弁護士といった多彩な顔ぶれから構成されている。また、IISECでは、連携教授、アドバイザリーボードという制度を設けており、前者は大学内外の情報セキュリティの最先端の研究者14人で構成され、研究会や特別講義等を通じて教育・研究のサポートをする役割、後者は情報セキュリティに関連する産業界や学界のトップ層23人を据え、大学が今後進むべき方向についてアドバイスする役割を依頼している。このユニークな教員構成によって、学問と現場を繋ぐことができ、学生のニーズに応える教育ができるのだろう。後藤学長は、「情報セキュリティに知悉している方に対する需要は高まっており、皆さん引っ張りだこです。これだけの第一線の教員をリクルートすることは、実は大変です。とりわけ、連携教授、アドバイザリーボードのメンバーは、ご本務もあってご多忙な中、本当に熱心に教育・研究に力を注いで下さり、ありがたい限りです」と言う。もう1つは、文部科学省の競争的資金を得て、他大学と連携した情報セキュリティ人材の育成を行っていることである。現在2つのプログラムがある。第1は、「先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム」に採択されて2008年から開始しているISSスクエアであり、参加者にはサーティフィケートが付与される。IISEC、中央大学、国立情報学研究所に11社の企業・研究機関が加わり、研究と実務とを融合することで先端的な情報セキュリティ人材の育成を目指している。具体的には、サブゼミ的な研究分科会・ワークショップ・インターンシップ・見学会・他大学の学生との交流等が行われ、学生に対しては第2の専門として履修を推奨している。学生の人気は高く、これまで200名以上が参加しているという。第2は、「情報技術人材育成のための実践教育ネットワーク事業」に採択されて、2013年からスタートしているenPiT-Securityである。IISEC、東北大学、北陸先端科学技術大学院大学、奈良先端科学技術大学院大学、慶應義塾大学の5大学が連携し、産業界が求める実践的な情報セキュリティ人材の育成のためのコースを提供するプログラムである。これら競争的資金への採択とは、IISECの16年余に渡る学問と現場を繋ぐことに一貫してきた教育・研究が、情報セキュリティ対策を求め人材育成が急がれるようになった近年の時代の要請に、うまくマッチした結果ということができよう。では、そのメリットが開花しているかと言えば、そうとも言い切れない。というのは、必ずしも志願者が増えないからである。どのような学生が学んでいるのか、学生のプロフィールを見てみよう。学生の80%は社会人学問と現場を繋ぐ情報セキュリティに関する梁山泊を目指して

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