カレッジマネジメント223号
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21リクルート カレッジマネジメント223 / Jul. - Aug. 2020であり、そのうち20%は既に修士号を持つ高学歴集団である。業種を見れば、2018年10月と2019年4月入学者41名のうち、情報サービス9名、官公庁9名、情報通信5名と続き、それ以外は、メーカー、金融・保険、専門サービス、自営等と極めて多岐にわたる。年代では20歳代16名、30歳代14名が最多であり、何らかの形で情報セキュリティと関わる仕事をしている者が多いが、学部時代の専門は必ずしも情報系ではない。これに対しては、科目内容や履修方法に関する工夫があるため、学部の専門との関連がないことは不利にはならないという。興味深いのは、毎年60〜70%が企業からの派遣であることだ。派遣が多数を占めているということは、企業からその実績が認められてのことであり、しかも社会的要請は高まっているため、志願者は増加傾向にあると想定できる。しかし、40名の定員はかろうじて埋まっている状況が続いており、決して安泰ではないという。情報セキュリティ対策は認知されるようになっても、その課題に対処する高度人材を育成する場があることに関しての認知度は低い。また、日本企業が全体として、社員の大学院での再学習に消極的な風潮が強いことの影響は大きい。そこで、現在新たなターゲットとしてその獲得を目指しているのが、企業の経営層である(図3)。それは、単に新規の学生マーケットを開拓するというだけではない。情報セキュリティという問題が、冒頭に示したようにサイバー空間とフィジカル空間の融合の中で生じること、そこでのリスクが人間社会や企業組織に与える影響が大きいことを考えると、スペシャリストである技術者や実務家の域を超えて、企業の経営層が状況を見極めて判断することが重要になってくるからである。とはいえ、そうした職位にある者が修士号取得を目指して2年間を割くことは、実際問題としては困難である。しかし、短期集中コースであれば、多忙な経営層も時間を当てることができよう。これらの層の間に情報セキュリティの重要性の認知が高まれば、社会的リスクを下げることに繋がるうえ、社員の大学院での再教育や企業内研修についての需要が見込めるかもしれない。現在、前述のenPiTプログラムの中に、enPiT-Proとして60時間~120時間の履修証明プログラムを開始しており、また、企業向けの2〜6日間の短期研修コースを設けている。これらの打って出る試みは、当該大学の成否だけでなく、今後の日本社会が情報セキュリティをどう考えていくかの試金石のようにも思う。OB・OGとの連携を強化することも重要である。幸いにもOB・OG会は盛んであり、業種を超えたネットワークができており、業界を超えて仕事の相談や情報交換をする場となっているが、それが大学を支える一翼となることも期待されている。IISECに関わる多様な人が多様な形で大学を利用し、新たに人を呼び込む場とするといった構想が目に浮かぶ。「情報セキュリティに関する梁山泊を目指すというのが、先代の学長からの構想です」と後藤学長は語られる。この夢の実現は、そう遠くはないように思う。(吉田 文 早稲田大学教育・総合科学学術院教授)高度専門人材高度戦略人材高度な経営判断セキュリティ対応力セキュリティ実践力のある実務者セキュリティエキスパートリスクマネジメント経営リスク対応力ICT分野製造分野流通分野金融分野医療分野インフラ分野実務者層戦略マネジメント層から経営層へ領域の拡大(領域ごとのセキュリティ人材)実務者層の高度化実務者層経営層戦略マネジメント層図3 実務者層・戦略マネジメント層から経営層へ特集 AI・データサイエンス教育と大学
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