カレッジマネジメント223号
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23ている点だ。即ち、20年先の未来予測を基軸に外部・内部の環境分析を踏まえる形で策定されていて、長期戦略の成果指標の中から最も重要なものをKPI(Key Performance Indicator)として抽出するとともに、将来構想全体の最終目標の成果を測る総合指標としてKGI(Key Goal Indicator)も設定されている。それらをさらに、学院全体の基盤計画や実施計画からなる「中期総合経営計画」へと落とし込み、実行に移す仕組みとなっている。こうして体系化された長期戦略の一環として、関学は2021年4月、神戸三さんだ田キャンパス(KSC)に理系4学部を新設する。長期戦略に謳う「理系の強化・充実」を具現化したものである。これにより、現在の理工学部と総合政策学部の2学部から「理学部」「工学部」「生命環境学部」「建築学部」「総合政策学部」の文系・理系5学部で構成されるキャンパスへと進化を遂げることになる。KSCでは、国連SDGsの掲げる「持続可能なエネルギー」をキャンパスの重点研究テーマの一つとして設定し、海外学修科目(PBL、フィールドワーク、実習、インターンシップ等)を拡充させると同時に、文理の境界を越えた分野横断型のアントレプレナーシップ教育を展開していく計画だ。その柱の一つが「AI活用人材育成プログラム」であり、2039年の世界を予測する超長期ビジョンから演繹的に導き出された取り組みである。そこには、まさに超少子高齢化が進む中でAIが劇的に変えているであろう未来社会を前提に、AIを現場で活かしていける人材を育成しようという戦略性が具現化されている。関学がAI活用人材育成に向けて本格的に動き出したのはここ数年のことだ。その契機は、日本IBMが主催する天城学長会議の世話人を務める中で、2017年、日本IBMが開発した世界最高クラスのAIの一つであるWatsonが急速に社会で実装化されているのを知ったことだったと村田学長は語る。村田学長は、Watsonがチェスの世界名人に勝利するといったことだけでなく、例えば白血病を正確に診断し治療方法を提案できるようになる等、Watsonの実用化が本格化してきていることに驚いたという。しかし肝心なのはその先だ。AIの本格導入は、社会を、そして職場環境を変えていくに違いない。関学が多くの卒業生を送り出してきた業界の環境も当然変わる。例えば、金融業界にAIが実装されれば金融や保険業務の多くがAIに代替される可能性が高い。事実、金融業界の現場にAIが分かる人材、AIを理解し活用できる専門家がいないことが課題になりつつあった。そうであるなら、未来を見越した人材育成に転換を図っていく必要がある。今関学が有する強みが弱みに変わってしまわぬよう、強みをさらに強化していく取り組みが求められる。そんな危機意識を抱いたと村田学長は振り返る。もとより村田学長は経済学者という一面を持つ。関西生産性本部副会長として、生産性の研究も行ってきた。そんな村田学長の目には、かつてIT革命に乗り切れなかった日本が再びAI革命に乗り遅れ、生産性向上の機会を逸するのではないかと映る。米国は1990年代にIT革命で生産性を高めることに成功したが、日本は2000年代IT革命による生産性向上につなげることはできなかった。それは、日本社会が無形資産としての人材の育成・確保や組織改革を実現できなかったからだと村田学長は見る。日本はIT技術の研究開発には膨大な額を投資したが、ITを活用する人材の育成が進まなかった。人と組織が変わらなかった。AIもITの延長線上にある。AIを活用できる人材がいないとIT革命時の二の舞になりかねない。現場でAIが分かる人材がいないと日本はAIを使える国にはなれない、AIを活用できるボリュームゾーンを育成してくことがカギになるはずと村田学長は確信した。そう考えた学長の動きは速かった。即座に日本IBMと連絡をとり、AI活用人材育成プログラムの共同開発を提案したという。2017年7月から話し合いを始め、9月には人材育成や産学連携を含めた包括的な共同プロジェクトを開始し、翌年4月には学内でのプログラム設置検討が始まっている。日本IBMが社内に有するプログラムも参考にしながらプログラム開発を進めたと村田学長は語る。育成を目指すのは「AI活用人材」だ。最先端のAI技術をリクルート カレッジマネジメント223 / Jul. - Aug. 2020村田 治 学長巳波弘佳 理工学部教授特集 AI・データサイエンス教育と大学日本IBMと連携してプログラムを共同開発

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