カレッジマネジメント223号
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28リクルート カレッジマネジメント223 / Jul. - Aug. 2020を「おいしいものを先に食べる」点だと説明する。データサイエンスのバックグラウンドは、言うまでもなく統計だ。即ち、入学後、まずは微分・積分、確率といった数学を徹底的に学ぶといった方法をとることも有力な選択肢として想定される。いわゆる理論から応用という筋書きである。だが、武蔵野大学データサイエンス学部はそうしなかった。「データサイエンスやAIの領域には優れたツールがたくさんあります。1年生には、この様々なツールを使って、具体的な問題解決とその醍醐味を一通り経験してもらいます。そのうえで2~3年生で、既存のツールでは解決できない問題に臨むため、数学を含め、原理的な勉強に取り組む、というのが私達のカリキュラムデザインの狙いです」と上林学部長は述べる。未来創造プロジェクト開講前、1年生にどれほどのものができるのかという不安も抱いたが、今思えば杞憂だった。データサイエンスを学びたくて、狭き門に挑戦した学生ばかりである。授業は90分2コマ連続と長丁場だが、教室内は学生のエネルギーが充満している。予想以上の成果が出たこともあり、年度末に実施した発表会には、急遽、西本学長も同席することになった。西本学長は「面白いだけでなく、データサイエンス学部の学生が教員以外の専門家による指導を受けることでさらにパワーアップする可能性に気づかされた発表会でした」と感想を述べる。本プロジェクトの質の高さは、授業のなかから学会発表に結びついた成果が生まれ、さらに受賞までしたものがあったという点からもうかがえよう。卒論生や大学院生の発表が多くを占める場での快挙である。「学生の1人は、1年生にして未来創造の研究成果を12月に国際学会で発表しました。学生達も手応えを感じていますし、私達教員も手応えを感じています」と上林学部長は微笑む。1年生のときに一番おいしいメニューを提供すると、学生は味を覚える。自分自身の力で、自分なりに答えることの充実感を知る。1年生ではまず身近な関心事を研究テーマ化することを主眼として、2年生、3年生と知識を身につければ、扱うテーマも大きくなっていくはずだ。最終的には社会問題につながるような大きなテーマを設定し、その解決に挑戦するようになってほしい。武蔵野大学は、2019年3月に武蔵野大学SDGs実行宣言を発表した。データサイエンス学部の学生が、どのような新しい価値を生み出すのか、寄せられる期待は大きい。入学早々、数学を徹底的にやるという方法はとらない。プロジェクトを大事にするカリキュラムを組む。こうした武蔵野大学データサイエンス学部の特徴を少し異なった角度から切り取れば、文理融合のさらにその先をいっていることが指摘される。実際、データサイエンス学部には自身が文系だという学生が2割ほどいるが、一期生を見る限り、文系学生も伸びやかに学んでいるという。理系学生であろうと、文系学生であろうと、新しいツールを身につけて、具体的な問題解決に取り組むことを楽しんでいる。なお、2020年度からは、2年生となった一期生が数学に取り組むことになるが、大きな問題は生じないと見ている。それは、単一学問領域に閉じた学びではなく、つまり数学を数学の枠組みで学ばせるようなことはしない授業を用意できたからだ。学生達は、プログラミング言語と数学の基本概念を連動させて学ぶとともに具体的な問題を解くという複合的な要素を織り込んだ教育デザインを行っている。混然一体的に学ぶこと、繰り返しながらレベルを上げていくスタイルのほう写真2未来創造プロジェクト成果発表会の様子文理融合の先をいく

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