カレッジマネジメント223号
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56新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、全世界に多大な健康被害をもたらすとともに、社会・経済活動に深刻な打撃を与えている。日本でも2020年1月に感染が確認されて以降、岩手県を除く全都道府県に広がり、4月7日には緊急事態宣言が発出される事態となった。幸いにも欧米各国に見られる感染爆発までには至らず、5月26日以降宣言は全面解除された。これを受けて、感染制御を行いながら社会・経済活動を段階的に引き上げていく新たなフェーズに入ったが、感染の再拡大や第2波による被害を避けるための、石橋を叩きながらの難しいオペレーションが求められている。そのなかで、いわゆる3密(密閉、密集、密接)を避ける「新たな生活様式」を定着させていかなければならない。世界経済はリーマンショックを凌ぎ、世界恐慌以来最悪の状態とも言われている。グローバル・サプライチェーンの寸断と需要の蒸発により生産、消費、雇用の全てが一気に落ち込み、早期回復は困難との見方が大勢を占める。成長と効率をひたすら追求してきたグローバル・キャピタリズムは、繰り返し問題を指摘されながらも、その勢いは止まることがなかったが、コロナショックにより、その根本が問い直されている。人類は幾度となく感染症の脅威に晒されながら今日に至っている。都市への人口集中と密集、移動の増加と高速化、開発による自然破壊等が新たな感染症を生み、健康リスクを増大させてきた。その逆に、感染症が世界の歴史を変える重要な要因となった事例も少なくない。ポストコロナと呼べる時期がいつ到来し、そのとき社会が如何なる姿になるのか、現時点で見通すことは難しいが、コロナ以前からポストコロナへの移行は、様々な面でパラダイム・シフトを伴うものになるであろう。だからといって大学が果たすべき基本的な役割が変わるわけではない。ポストコロナ時代のより良き社会の実現に向けて、それを担う人材を育て、新たな知識を創出すべく、教育、研究、社会貢献の各機能を高め、発揮していく必要がある。当然、それぞれの機能の持ち方や方法については根本的な見直しが求められるであろう。既に始まった遠隔授業は変革に備えた実験でもある。どうすれば学生に伝わるか、学ぶ意欲を持続させることができるかについて、同時期にこれほど多くの教員が考え、工夫を凝らしたことがあっただろうか。視線をポストコロナから足下に戻すと、乗り越えるべき問題が数多く横たわり、それぞれに難度が高いことがわかる。存立基盤の急速な悪化に直面する大学も増え、世界各国で高等教育システムが危機を迎える可能性もある。大学はこの未曾有の事態を如何にして克服するべきか、そして、ポストコロナの時代にふさわしい大学像をどう構想し、その実現に向けて変革を進めていくべきであろうか。時間軸を大きく3つに区切り、感染拡大への危機感が高まり始めた2月下旬から緊急事態宣言解除の5月下旬までを「緊急時対応」、感染制御を続けながら社会・経済活動を段階的に引き上げ、新たな生活様式を定着させるまでを「段大学を強くする「大学経営改革」新興感染症がもたらす歴史的危機の中で大学のこれからを考える吉武博通東京都公立大学法人 理事筑波大学名誉教授リクルート カレッジマネジメント223 / Jul. - Aug. 202088全世界に多大な健康被害と社会的・経済的打撃未曾有の困難を乗り越えつつ新たな大学像を構想

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