カレッジマネジメント223号
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59リクルート カレッジマネジメント223 / Jul. - Aug. 2020遠隔授業体制の充実、大学施設の3密回避対策、学生への経済支援、リモートワーク環境の整備等大学の支出増は避けられない。文教大学学園の本田勝浩経営企画局長は、「私立大学の財政が厳しさを増すなか、学費に対する学生・保護者の関心は高まる傾向にある。授業料返還を求める声も一部にある。遠隔授業の拡大が質の低下ではなく、教育の質を高める取組の一環であると納得してもらうことで学費水準も維持できる。経営と教学が一層連携を強めなければこの難局は乗り越えられない」と語る。5月28日時点で感染者176万人、死者10万人と世界最多の米国における大学の現状について、クレムソン大学理学部の木原由貴国際担当アシスタント・ディレクターに伝えてもらった。それによると、5月上旬にACE(米国教育協議会)が行った調査では、回答した学長の84%が、秋学期には「かなり高い可能性で」もしくは「おそらく」対面教育を再開すると答えているという。サウスカロライナ州に立地する州立ランド・グラント大学であるクレムソン大学も、秋学期の対面教育及び活動の再開を目指し、学生と教職員、地域の安全と健康を最優先しながら、科学的根拠に基づく検討及び準備を進めており、学生寮への入居、課外活動、学生支援についても、社会的距離の確保、個人用保護具の装着、手洗いの励行、大人数のイベントの禁止等の原則に沿って、継続または再開する予定だという。人口あたり感染者数が日本の約40倍に達する米国の秋学期からの対面授業再開をどう見るか、評価は難しいが、引き続き注視していきたい。国立情報学研究所の船守美穂准教授は、「世界の大学はオンライン教育に移行している。大学側も学生側も不満を抱える一方で、これからは、感染者数を横目に、オンラインとオンキャンパスを随時切り替えいくことが求められる。授業時間も可変となることから、学修時間ではなく、学習到達度で、学位や単位の付与をするといった切り替えも必要」としたうえで、「大学教育の劣化に感じるかもしれないが、ポストコロナに待っているのは、教育・就労・生活のいたる面でデジタルとフィジカルが融合した世界だ。こうした近未来の世界像に適合した教育に投資することは、これまで呼び込むことができなかった層を高等教育に誘うことにもつながる。これからの大学は、社会に溶け込み、学習や協働の場を提供することが求められている」と述べる。今から100年前、世界人口の3分の1が感染し、数千万人の犠牲者が出たといわれているスペイン・インフルエンザから学ぶことは実に多い。一方で、今回のパンデミックでは、科学の発展、医療の発達、ICT(情報通信技術)の革新により、健康被害や社会生活への打撃が抑えられている面もあるだろう。人類社会は、感染症のみならず、自然災害、さらには自らが招いた環境破壊のリスクにも晒され続けるであろう。ウィルス一つとっても人間が知り得た知識はごく限られたものでしかなく、絶えざる探究が求められる。知を創造し、継承することを責務とする大学の役割自体が揺らぐことはない。一方で、教育と研究の機能の持ち方や発揮の仕方、社会との関わり方は変革を求められている。大教室に学生を集め、稼働率を高めることで経営を成り立たせてきた面も否定できない。そこからどう発想を転換するべきか、船守准教授の指摘はそのための視点や方向を示唆するものである。既に始まっていた変化がこれを機に一気に加速することも予想される。また、コロナ以前から行き過ぎを指摘されてきたグローバル・キャピタリズム、経済成長と地球環境、格差の拡大等について、立ち止まって問い直す好機である。感染防止のための監視・制限と人権の関係等民主主義のあり方自体も問われている。新たなパラダイムを構築するためにも学術面からの貢献は不可欠である。パンデミックを通し、知識を得て、自立して考え、協力して行動することの大切さを改めて痛感させられる。そのための教育は如何にあるべきだろうか。大学にとどまらず教育機関が担うべき役割は大きい。秋学期からの対面授業再開を目指す米国の大学デジタルとフィジカルが融合した世界

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