カレッジマネジメント224号
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64リクルート カレッジマネジメント224 / Sep. - Oct. 2020およそ日本の大学は、芸術とは縁遠かった。というのは、芸術分野を専攻したいと思えば、美術大学や音楽大学へ進学するしかなく、そこは興味半分で進学できるところではなく、プロを目指す者、それに相応するスキルを大学入学以前に身につけた者にしか門戸は開かれていなかったからである。また、一旦、進学した以上、独立した作家や演奏家になることが暗黙のうちに求められていた。いや、これらは過去形ではなく、現在進行形であるかもしれない。このように、芸術を特殊領域に閉じ込めてきた日本の大学であるが、その枠を取り払おうとしている大学がある。それが武蔵野美術大学である。この大学名を聞く限りプロの美術家の養成校のように思えるが、その学部構成が、造形学部と造形構想学部だと聞くと、多くは疑問符をつけて返答するのではないだろうか。この疑問を解くためには、まず、その設立に遡っての説明が必要であろう。武蔵野美術大学の前身は、1929年に設立された帝国美術学校にある。創立時のミッションは、「教養を有する美術家養成」、後に「真に人間的自由に達するような美術教育」が加わっており、確かに美術教育を謳ってはいる。しかし、単に美術家のスキルを持つ者の養成ではなく、幅広い知識を得て何か新しいものを構築する力を持つ者を養成することが、このミッションには込められていたという。その意図は連綿として引き継がれ、旧教育制度化の1947年には校名を造形美術学園とし、1962年に4年制の武蔵野美術大学になった時も学部名は造形学部であった。日本初の造形学部である。その後、長く続いた造形学部であるが、2019年にはそこから造形構想学部が分離独立する。このように、「造形」をバックボーンとする武蔵野美術大学であるが、この造形について長澤忠徳学長は、「造形とは、単に美術に限らず、何か形あるものを作り出すことです。本学のミッションである教養を有する美術家養成とはまさにそれであり、教養教育と造形教育によって美術という領域を確立していったのです。デザイン・リテラシー、視聴覚リテラシー、造形リテラシー、これらは一般的な自然言語に対比されるものとしての感性に属するものですが、こういった辞書のない造形要素を扱う言わば造形言語のリテラシーを涵養することを、美術大学としての本学はミッションとしてきました」と語られる。造形というミッションをさらに進めたのが、2019年に新設された造形構想学部である。この学部は、全く新たなコンセプトで作られたクリエイティブイノベーション学科と、造形学部から移行した映像学科とから構成される。どちらも、「創造的思考力をもって社会的イノベーションに寄与する人材の育成」を共通する目標とするが、クリエイティブイノベーション学科、及び大学院造形構想研究科造形構想専攻に置かれたクリエイティブリーダーシップコースの学びのコンセプトは図1に見る造形の意味造形構想学部に結実長澤忠徳 学長造形というミッションの開花武蔵野美術大学C A S E2
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