カレッジマネジメント224号
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65リクルート カレッジマネジメント224 / Sep. - Oct. 2020ように、ユニークである。ベースにクリエイティブ、その上にビジネス、テクノロジー、ヒューマンバリューの3つの円が重なったところに、ソーシャル・イノベーションが起きるのである。ソーシャル・イノベーションとは、現代社会の課題を解決し、さらに新たな価値を創造する試みを意味するが、そのためには現代社会の仕組みと、我々の生活に欠かせなくなったITを中心とするテクノロジーの両方に知悉し、さらにそれを如何にして表現するかを学び、これらを融合することで初めて可能になるのだ。この造形構想学部の学びの一部は、武蔵野美術大学のメインの鷹の台キャンパスではなく、市ヶ谷に新たに設置したキャンパスで行われる。都心の立地を活かし、ビジネスを身近に感じながら価値創造をしたいという思いが、市ヶ谷構想となった。その具体的な形態が、「MUJI com武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス」であろう。これは、市ヶ谷キャンパスの1Fにある無印良品の店舗であるが、無印良品の物品を販売するだけの店舗ではない。武蔵野美術大学との共創スタジオであり、各種のイベントを企画し、そこに教員や学生が時には協力、時には主催する。教員や学生にとっては、図1に示された学びを実現する社会実験の場になっている。この取り組みと企業をつなぐのが、2019年に市ヶ谷キャンパス開設とともに設置されたソーシャルクリエイティブ研究所である。「日本をデザインする」、「これからのデザイン教育」、「ライフスタイルデザイン」をビジョンに掲げて研究を進め、プロトタイプを作ろうとしている。これらの研究は、研究者だけが研究室にこもって行う研究ではない。無印良品との共創スタジオのように、積極的に外部機関、すなわち企業、自治体、地域住民等と連携し、社会問題の解決方策を探るとともに、新たな社会的価値を創造しようとしている。学長によれば、「新しい教育を始めるときは、研究所をつくって研究の成果を教育に活かし、同様に大学院を設置して研究と教育の一体化を図っていくことが、効果をもたらします。これは、私が在籍した当時のイギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アートの方式でもあった」のだそうだ。確かに、未知のことを明らかにしていくことが研究であり、明らかにしたものが知であり、その知を伝えるのが教育という循環を具現化すると、新学部の設置と研究所の設置は合理的な組み合わせということができる。この新キャンパスで学ぶのは3年生以上のため、学年進行で3年生が市ヶ谷キャンパスにやってくるのは2021年度からである。この取り組みがどのように効果を発揮するか、楽しみである。「教養を有する美術家養成」から始まった武蔵野美術大学は、教養教育を、どの学部・学科においても、創造的思考力を涵養するためのバックボーンとして位置づけている。美術大学の教養教育とはどのようなものなのだろうか。それにもっともよく該当するのが「文化総合科目」であろう。それは、「教養文化」というカテゴリーの人文・社会・自然にわたる科目、「言語文化」というカテゴリーの外国語、「身体運動文化」という身体運動の科目、加えて、美術・デザイン・建築の専攻領域における共通基盤となる専門能力を養うとされている「造形文化」から構成されている。このうち、「教養文化」、「言語文化」、「身体運動文化」は、1991年以前の大学設置基準に規定されていた一般教育科目に近い。しかしながら、ここで興味深いのは、造形学部のどの特集 進学ブランド力調査 2020図1. クリエイティブイノベーション学科・クリエイティブリーダーシップコースで学ぶ領域教養と創造的思考力ヒューマンバリューテクノロジービジネスクリエイティブ心理学経営産業ArtDesignAIメディアIoT感性工学サービスデザインUXデザインブランディング

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