カレッジマネジメント224号
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66リクルート カレッジマネジメント224 / Sep. - Oct. 2020学科も、卒業に必要な124単位のうち40単位をこの「文化総合科目」に充てている点である。もう1つ特筆したいこととして、「造形総合科目」という科目群の存在である。これは自分の専門とは異なる領域を学ぶことを目的としており、8単位が充てられている。これは旧来の考え方でいえば、専門基礎科目に相当しよう。これらを合わせれば、卒業要件の124単位中48単位、すなわち40%弱が教養関連の学部共通科目となる。1991年の大学設置基準の大綱化以降、ほとんどの大学が一般教育=教養教育に関する履修単位数を減少させるなか、これだけの履修単位を教養科目に充てている大学は珍しい。しかも、造形学部といえども、伝統的な日本画学科から最新の技術を取り入れるデザイン情報学科までの多様な11学科(造形構想学部に移籍する以前の映像学科を入れれば12学科)に対して、このような共通性の高い教育を行っていることも、教養教育の理念を体現しているということができる。なぜなら、アメリカの教養教育には、幅広い分野を学習するということとともに、たとえ専門教育の内容は異なっていても、同様の教育内容を学習した集団の凝集性を高め、社会をリードするという役割が課されてきたという歴史的経緯があるからである。造形構想学部クリエイティブイノベーション学科は、造形学部とはやや異なり、「文化総合科目」の履修は14単位と少ない。しかし、「造形構想基礎科目」に18単位、「専門基礎科目」に39単位が割り当てられていることに特徴がある。そのなかには、「現代社会産業論」、「フィールドリサーチ演習」、「キャリアイノベーション」、「知的財産権基礎」等、これまでの造形の概念とはかけ離れ、まさしく図1にある、ビジネス、テクノロジー、ヒューマンバリューに関わる科目を履修する仕組みであり、総合的に創造的思考力を生み出そうとする仕掛けが見てとれる。こうした教育理念を体現してくれるのは学生である。彼/彼女らが武蔵野美術大学での教育を受け、それを社会の多方面で発揮してくれてこそ、教育のミッションは意味を持つ。その点から考えると、大学入学以前から画塾予備校に通い、美術家を目指す者のみを選抜する必要はない。基礎学力と造形への意志があれば、入学後の教育で目標とする人材養成ができると考え、2000年代に入ると、大学入試センター、公募・指定校推薦、外国人・帰国生等、新たな入試方式を導入してきた。造形構想学部ではさらにこの方針を明確にし、とりわけクリエイティブイノベーション学科では、実技試験は一切課していない。学生の創造的思考力を高めるためには、美術のスキルに限定されない、多様な経歴や志向性を持つ者が融合することが必須と考えてのことである。図2の入試方式別の志願者数の推移をみると、一般入試による志願者は減少しているが、大学入試センターはほぼ一定、公募・指定校推薦、外国人・帰国生は、緩やかに上昇を続けており、結果として志願者は若干の増減はあるがほぼ一定を保っている。ただ、こうした考え方を高校や志願者の保護者に理解してもらうには、まだまだ時間がかかりそうである。美術大学≒プロの芸術家の養成≒生活が成り立たないという、ステレオタイプ化された見方が浸透しており、志願者の保護者や高校の進路指導の教員からの反対の声が上がることもあるという。ただ、それも時間の問題のように思う。造図2 入試方式別の志願者数の推移多様な学生層02000400060008000100001200019899091929394959697989901020304050607080910111213141516171819202000(年度)一般(人)センター公募・指定校外国人・帰国生
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