カレッジマネジメント224号
71/90
71リクルート カレッジマネジメント224 / Sep. - Oct. 2020といけない。私学は学生が来ないと潰れる」と最初に話すという。大学の一番の評価者は学生、一番の宣伝効果は口コミで、今いる学生に良かったと言ってもらえるかが大事であるという。「入学者1250名を確実に確保することが大切で、志願倍率を上げることよりも、本学が求める学生に入学してもらい、しっかり教育をすることを繰り返すことで経営が安定します」(野尻学長)。学生から集めた学納金も無駄遣いせず安定した運営をすることが大事で、30年来、蓄積した約5億円を財源に、今回のコロナ禍でも全学生に「RKU学修環境整備奨学金」(自宅学生8万円、自宅外学生10万円)を支給することができた。同大学の資料を拝見していると、一般教養も全学共通であり、1年次から4年次までゼミに所属させる「全員ゼミ制」、キャリア教育や入試を見ても、大学全体で共通の枠組みや姿勢があるため、何か工夫をしているのか尋ねてみた。学科ごとの事情や方法に違いはあるが、何かやる時は学部長連絡会や大学協議会で議論し、「一緒にやれるならやろう」と意思疎通しており、大学内の風通しも良いという。かつてはある学部で、独自の入試をしたいという話もあったが、今は大学として同じ方向を向いて苦しい時は補完し合おうという雰囲気が醸成されている。教員を採用する場合も、全て公募だが、学部の人事委員会を経て、最終的には理事長、学長等が最低2名は面接をして、「こういう大学だけど、本当によいか」としっかり説明して、強調している。入学定員の推移を確認すると、1996年から多少の増減はあるが、現在の1250名とほぼ同じ水準で維持しており、その時々に学科の人気度も変化している。純増ではなく、既存の学部学科の規模を小さくして、新しい学科を作ってきており、長い間、全学的な観点での協力・助け合いで大学が発展してきたことが、そうした雰囲気を構築してくるうえでも重要な役割を果たしてきたのかもしれない。今後の課題は教育の質だという。昨年カリキュラム改革を行い、特にディプロマポリシー、つまり世の中にいかに良い人材を送り出すかということから逆算した教育設計を行い、全学を上げて取り組んでいる。コロナ禍で、思いもかけず春学期はオンライン授業になったが、これを契機に「これまでの授業でよかったのか」という思いを抱く教員が多いという。100人規模の教室では居眠りをする学生も少なくなかったが、オンライン授業では反応が直接的で、教員も学生も緊張感があり、居眠りする学生もほとんどいない。いくつかの学部で学生にアンケートをしたところ、学生からもオンライン授業は極めて評判が良い。例えば、流通情報学部の新入生では、約4割が「オンライン授業が良い」と答え、学生は教員側が想像していた以上にすんなりと受け入れているという。翻って、ウィズコロナの時代の大学教育の中身はこれまでと同じものと考えてはいけないという危機感を多くの教員が持っている。「必要があればカリキュラム改革ももう一度見直す必要があるかもしれないが、一気に目が開けた思いだ」と野尻学長は前向きだ。ロジスティクス分野は労働力不足という大きな危機を抱え、AIやIoT等の科学技術を取り入れて進化する必要があるが、教育の場面でもそういう社会になることを見据えて、プログラムを作っていかないといけない。新しい時代や社会の中で、どういう教育展開ができるか、若い発想力に期待しているという。また、「学生を勇気づけ、自信を持たせてあげることも重要だ」と言う。RKUでは就職に力を入れているが、なかでも流通情報学部は企業からのニーズも非常に高い。運送会社からの求人のみならず、それらを使う側である大手企業や商社、メーカーからの引き合いも多いという。かつてはロジスティクスの会社に任せていたが、自社の中でそれらを点検し、計画できる人材が欲しいというニーズがあるからだ。しかし、学生達は企業の名前を見て、巨大な企業で自分に何ができるのかと不安になり、引き合いがあるのに、そうした企業を選ばない学生も多い。そうした不安をいかに取り除き、学生に自己肯定感を持たせてあげられるかは教育上とても大事で、社会で挑戦する機会や自分が認められる経験をたくさん積ませたいという。RKUの中でもスポーツ健康科学部の学生は「これが得意だ」というものがあり、堂々とどこにでも入っていける良さがあるが、そうしたスタンスは勉強以上に重要な生きる力として、他学部でも身につけさせたいという。徹底的な学生視点と建学の精神の追求。この先のRKUのさらなる発展が楽しみだ。(両角 亜希子 東京大学 大学院教育学研究科 准教授)今後は大学教育の質をいかに高めるかが最大の課題特集 進学ブランド力調査 2020
元のページ
../index.html#71