カレッジマネジメント224号
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78リクルート カレッジマネジメント224 / Sep. - Oct. 2020組みです」(福田学長)。COC+事業についての成果として、外部委員にも評価されたのが、県内就職志望率の向上だ。「2015年度は39.1%でしたが、それが数値目標とした『50%以上』まで上がっています」。その成功の要因を学長に尋ねると、地域性に関連づけたこんな答えが返ってきた。「入学者の出身地は北海道が3割くらい、青森県が4割くらい、東北各県と北海道を合わせて9割近くになります。なので、北海道人、東北人としての地域への愛着がもともとあるのだと思います。そういう思いを、地域志向カリキュラムの取り組みを通じて刺激することができたということが大きいのではないかと」。ただ、実際の県内就職率の向上につながっていない課題はあると言う。「いくら県内就職を希望しても、県内にキャリアを活かせる職場が少ないというのが、大きな課題ではないかと思います。その点に関しては、一朝一夕にできることではありませんし、大学だけではできませんので、色々な企業の方々と県内の企業力をアップしていくことが、これからの大きな課題になると考えています」。「アグリ・ライフ・グリーン」事業の成果については、取り組み1の理工学部、取り組み2の農学生命科学部の改組が2019年度に完成年度を迎え、2020年春に新学部の第1期の卒業生を送り出した。取り組み2の「国際化」をキーワードとした「海外研修入門」も、2017年から3カ年開講し、次のステップとして、海外インターンシップの実施に向けた試行もしているという。「ただし残念ながら、今年度は新型コロナウイルスの影響で、海外研修入門と海外インターンシップを中止せざるを得ませんでした」(福田学長)。取り組み3に関しては、地域イノベーションの創出件数、「食」「エネルギー」関連共同研究・受託研究の実施件数、新品種・新商品の開発件数、学生の県内就職志望率と、4つの評価指標を設けているが、いずれも達成状況は良好で、文科省からも高い評価を受けているという。福田学長は、医学部附属病院長として学長特別補佐を務めた時期に、当時の佐藤学長の取り組みを通じて、改めて弘前大学が「地域と共にある大学」だと感じたという。「大学生活というのは、勉強だけでなく、地域との関わりの中で人間を成長させていくものだと思います。本学の学生達は、地域の県民・市民と接して、人間としての温かさとか思いやりとかを身につけていける。そういう地域だと思うのです。大学だけでなく、地域が人材を育成しているのではないかと考えています」。大学と地域とで育てた人材が青森の地域課題を解決する。それが今後も弘前大学の「学ぶと働くをつなぐ」方向性の主軸であることは変わらない。しかし福田学長はまた、「青森県地域の課題を解決するためだけでなく、大学で学んだ後に出身地域に帰り、地元に貢献できる人材の育成が、地方大学に求められているものではないかと思いますので、そういった取り組みもしていきたいと考えているところです」とも言う。「どこに行っても、『この問題、弘前にあったよね』ということで対応可能だと思うのです。弘前という地域で生活したこと自体が、その子を成長させていると思うからです」。もう一つ背景にあるのは、東北地区の人口減少が、他地域に比べると急速に進むという危機感だ。「本学が継続して役目を果たしていくためには、北海道と青森で入学者の約7割という現状を変え、もっと多くの地域から来て頂ける大学になっていく必要がある」。まずは青森県を元気にする人材育成。でも、どこから来ても、ここで学べば、地元に帰ってその地域を元気にすることに貢献できる。そういう人材育成を、将来的には行っていきたいということになるのだろう。「弘前大学は2004年の法人化以降、急速に進化した大学ではないかと思います。その中で、『地域を元気にする大学』ということは当初から打ち出しています。そういう魅力ある大学だと思っていますが、未だ知名度があまり高くない。東京に行くと、弘前大学の名前さえ知らない高校生がいるということなので、その点に関しては広報を、もっと努力していかなければいけないと思っています」。県内就職志望率が向上大学と地域で人材を育成(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)

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