カレッジマネジメント224号
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83向は一層強まるだろう。このことを踏まえ、個々の大学は自らの存在意義を再確認し、教育、研究、社会貢献の諸機能を高め、基盤となる経営力の強化を進める必要がある。第三は、コロナ後の社会と学問のあり方を見据えた新たな大学像の構築である。人類は都市に人口を集中させ、国境を超えてグローバルにヒト、モノ、カネを動かすことで効率を高め、成長を実現し、経済的豊かさを享受してきた。このことは日本の大学にも当てはまる。大学は東京をはじめ大都市に集中し、大教室に多くの学生を集めることで、効率を追求し、経営を成り立たせてきた。コロナ禍でこれらが問い直されている。ICT(情報通信技術)を活用することで、社会・経済活動の停滞が最小限に食い止められ、大学でも教育活動を停止させることなく春学期を乗り越えられた経験は、その過程で明らかになった問題の解決を含め、今後に活かされるはずである。また、感染防止を徹底するなかで衰退を余儀なくされる業種や見直しを迫られる業態がある一方で、新たなニーズに対応した業種・業態が生まれ、労働の円滑な移動のための教育も求められる。知識の重要性、情報伝達の難しさ、それらを理解し活用する能力の必要性等が、コロナ禍の体験を通して広く共有されるならば、そのことを前向きに捉え、学問や科学のさらなる発展に結びつけていかなければならないだろう。これらの観点から、大学はどうあるべきか、自校は如何なる役割を果たし得るのかを問い直し、構想する。それを通して存在意義を見いだし、持続可能性を高めていかなければならない。大学における新常態をつくりあげ、新たな大学像を構想するために、考慮すべき事柄について、コンピュータモデルを用いたシミュレーションにより感染予防策について発信を続けている筑波大学の倉橋節也教授の話を聞いた。倉橋教授は、計測・制御システム関連の民間企業に勤務しながら放送大学で学んだ後、筑波大学大学院で博士の学位を取得して教員の職に就き、人工知能をベースに経営・社会を解明する新たな領域の開拓に取り組んできた。在外研究先のオランダでエボラ出血熱に対する欧州各国の強い危機感に接し、もし日本に1人でも感染者が入ってきたらどうなるかとの問題意識から、ネットワークを用いたマーケティング・モデルの感染症への応用を考え、エボラ出血熱のモデルを開発したという。以降、毎年のように発生する感染症に関するモデルを開発し、研究成果の公表・発信を続けている。新型コロナウイルス感染症についても、武漢での発生に危機感を抱き、2月中旬の中国疾病制御センター(CCDC)による数万人の感染データの公開を受けて、2月20日頃までに感染プロセスのモデル化を行ったという。以下は倉橋教授の発言要旨である。自分は感染症学や公衆衛生学の専門家ではないが、これらが特定の研究対象を扱う学問だとすると、自身の専門である社会シミュレーションはそれらに横串を通す学問の一つであり、両方が協力することで科学の発展も促されると考えている。現在、社会・経済活動と感染防止の両立を目指すなか、3密回避等を徹底できなければロックダウンというどちらかを選択せざるを得ない状況が続いているように思われる。どのような対策がどの程度有効か、数字で明確に示すことが重要であり、それに基づいて、賢い防止策を場面場面で組み合わせながら工夫を凝らしていけば感染は抑えられる。例えば、観光による感染拡大を防ぐために、観光客と地元住民との動線を分けること等も有効だ。大学についても、感染者数が高水準にある大都市圏の大学と低く抑えられている地域の大学では、感染防止策の考え方が異なる。前者では、感染者が入構してくることを前提に、その先の二次感染を避けることに力を注ぎ、スマホを利用した行動記録把握の仕組み等も整えてリクルート カレッジマネジメント224 / Sep. - Oct. 2020賢い防止策を場面場面で組み合わせながら工夫を凝らすことで感染を抑える
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