カレッジマネジメント224号
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84リクルート カレッジマネジメント224 / Sep. - Oct. 2020おくことが重要だ。他方で、後者については、感染者の多い地域から戻ってきた学生に2週間の健康観察期間を設ける等、感染を持ち込まない対策を講じる必要がある。そのうえで、感染者の多寡に拘わらず、新常態において、教室定員に近い数の学生を集めて講義を行う形態の授業は遠隔授業に移行せざるを得ない。オンラインやオンデマンドのほうが移動時間の節約や繰り返し視聴等優れている面も多い。学生同士がグループで話し合う、少し緩やかなコミュニケーション・チャネルを用意することも必要だろう。それでも、学生の孤立の回避、学生同士の学び合い、図書館の利用等、キャンパスでの学びや交流は大切だ。大学が適切な防止策を講じ、学生が課外活動を含めて感染防止の行動を徹底できれば感染リスクは抑えられる。本稿執筆時点でも課外活動を中心に大学生のクラスター感染が連日報じられている。教室や図書館等教職員の目が届く学内施設内よりも、学外での課外活動や学生同士の飲食で感染が広がる可能性が高い。学生個々に責任ある行動を促すべく指導を徹底するとともに、感染が起き得ることを想定して、倉橋教授の指摘する行動記録把握等トレースの仕組みや発生時の対処手順等を整え、大学の機能を維持できるシステムを新常態として定着させる以外に方法はないだろう。そのためにも、これらのシステムの整備・運用、とりわけ学生への指導やきめ細やかな対応に大学のリソースをこれまで以上に投入する必要がある。教員と職員の分担と連携、職員組織における一般管理系業務から学生支援系業務への戦力シフト等が求められる。また、緊急時の対応として導入したオンラインやオンデマンドによるリモート授業を、さらに実効性を高めるための改良を加えながら、対面授業、両者を組み合わせたハイブリッド授業等と併せて、安定的に提供できる教育方法として定着させていく必要がある。情報リテラシーは教員間で大きな開きがあり、元々あった教育スキルの個人差と相俟って、教員間のばらつきがさらに広がる可能性が高い。遠隔授業に関しては様々なツールが提供されている。それらの評価・選定、セキュリティーを含む適切な運用、教員のサポート、学生からの問い合わせへの対応に加え、教室の割当や時間割の編成等、教務系・情報系職員の役割は質・量とも増すだろう。一方で、窓口フリー、印鑑フリー、働き場所フリーを謳った「東北大学オンライン事務宣言」(2020年5月28日同大学公表)に象徴されるように、コロナ禍での業務のあり方や働き方の抜本的な見直しが求められている。そのなかで、総務、企画、財務等一般管理系業務から教務、学生、情報等より教育現場に近い業務に如何に円滑に戦力をシフトさせていくか、トップマネジメントの意思と見識が試されている。私達はこれからの大学像をどう描けば良いのだろうか。自身も働きながら放送大学と筑波大学大学院で学んできた倉橋教授は、「対面授業の優れた点を遠隔授業でどこまで代替できるかが大学の競争力を左右するだろう。遠隔で500人さらには1000人に講義できるようになれば知識を伝達するだけの教員はより少数で済むようになるかもしれない。また、大都市圏と地方の教育面での格差も縮まる可能性がある」と指摘するとともに、「学生が初年次から遠隔授業やハイブリッド型授業に円滑に参加できるように、高校段階での情報リテラシー教育を強化し、家庭におけるICT環境の確保を支援する必要がある」と提言する。あくまで一教員の見解と断ったうえでの発言だが、筆者も同意する部分が多い。「知識を伝達するだけの教員」という言葉に違和感を抱く教員もいるだろう。しかしながら、自らに不都合な見解にこそ謙虚に耳を傾けることが、教育研究に携わる者の真摯で誠実な姿勢ではなかろうか。新常態に対応するためのリソース再配分が必要コロナ禍を克服するプロセスを通して組織を鍛える

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