カレッジマネジメント224号
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85リクルート カレッジマネジメント224 / Sep. - Oct. 2020社会に目を向ければ、医療機関の収支は急速に悪化し、旅行、輸送、飲食をはじめ需要の大幅な減少に苦しむ業種も多い。業態の変更、事業の再編・撤退、組織の組み替えなしには生き残れないとの危機感も広がっている。大学は社会によって支えられている。資金面だけではない。春学期は民間企業が提供する通信インフラやツールの力で教育や業務を成り立たせることができた。その社会が深刻なダメージを受けている状況で、大学だけが現状維持や部分的な改革だけで済まされるはずはない。改革は必ずしも縮小や削減を意味しない。学生の声に耳を傾け、社会に目を向け、学問の動向を見極めることで、果たすべき役割が見えてくる。春学期の経験を活かし、その役割を如何なる形や方法で果たすべきかを問い直すことで導き出されるものがビジョンであり戦略である。「組織は戦略に従う」と言われるが、戦略はどこからか降りてくるわけではない。トップマネジメントの視野や見識はもちろんのこと、教職員の健全な危機感と強い当事者意識、これらに基づく深い対話を通して生み出される。大学に決定的に欠如しているのはこの危機感と当事者意識である。危機は、組織の真の強さと脆さを浮き上がらせ、それを乗り越えるプロセスを通して組織を鍛える。そのことをトップマネジメントが強く自覚し、コロナ禍を自校の新たな発展の好機と捉え、行動することが大切だ。最後に、前号に引き続き、クレムソン大学理学部の木原由貴国際担当アシスタント・ディレクターに伝えてもらった米国の大学の最新動向を紹介したい。それによると、秋学期について5月時点では対面授業再開とする大学が多かったが、7月23日時点では、完全オンライン、原則オンライン、ブレンディッド、原則対面、完全対面等に対応が分かれ、特に大都市圏や西海岸はオンラインが多いとのことである。大学内では、学長・副学長、学部長・副学部長、教職員という職階や立場による認識の差が広がりつつあり、対面授業や対面での学生対応を避けたいと考える教職員が、大学や上司に要望を出すケースも見られるという。そのうえで、「コロナが過ぎる頃には多くの中小規模の大学、特に私立大学が消えているとの予測があり、コロナ禍が生き残る大学とそうでない大学を分けるきっかけになるのではないか」と指摘する一方で、「コロナの時代に入り、大学と大学が立地する地域との関係性、大学の役割の大きさを改めて感じるようになった」と語る。木原氏は現在も在宅勤務を続けているが、5カ月間大きな問題もなく、オンライン教育への切り替えも円滑だったと振り返る。コロナ禍で、行政、医療、教育等多方面で日本のICT環境や活用能力に課題があることが浮き彫りになった。大学においても、教育にとどまらず、学生支援、国際交流、社会・地域連携等の諸機能を維持・向上するとともに、組織運営や働き方を変革するためにも、ICT環境の整備と教職員全体の情報リテラシーの引き上げは急務である。この問題への取り組みなしにコロナ禍を乗り切ることも、コロナ後の新たな大学像を実現することもできない。倉橋節也筑波大学ビジネスサイエンス系教授、ビジネス科学研究群長コロナが分ける生き残る大学と淘汰される大学

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