52リクルート カレッジマネジメント225 / Nov. - Dec. 2020はいろんな活動をしてもらいたい。就業力というのは、内定をとるための力ではなく、社会に出てから発揮できる能力のことですから、そういう力を総合的に身につけさせることを、TCPをひとつのツールにして、これからチャレンジしていきたいと思っています」(柳澤学長)。TCPの大まかな流れは、まず学生が自分のそれまでの学修記録をもとに目標を入力。次にマンダラチャート(大リーグの大谷翔平選手が使っていたことでも有名になったフレームワーク)で将来の目標を具体的に設定して管理していく。各フェーズで外部の客観テストを受けて、自分の強みがどこにあるかを認識したうえで、振り返りを行い、自分の進路・就職を考えて、企業とのマッチングを的確に行っていく。ポートフォリオの活用には、学生が振り返り・フィードバックを、どのタイミングで、誰とどのように行うかが重要だ。秦副学長も、「『入力しておいて』となると、学生はなかなかやらない」と、その仕組みづくりの必要性を認識する。「みんなで集まって一緒に、『今日はここまで入れて帰ろう』とか、『来月ここまで入れておいてほしい』とか、そのチェックがてら、チームで、あるいは先生と一緒に、振り返る機会が必要です」(秦副学長)。そこで、フレッシュマンセミナーに始まり、キャリアデザイン1から4まで、キャリア系の科目を1年次から4年次まで全員が履修、TCPを継続的に使うことを習慣づける計画としている。ただ、4年間、毎週キャリア教育の授業をすることが効果的とはいえないため、2年生以降は、集中講義扱いとなる。学年に応じて、例えば1カ月に1回、あるいは教育学部や理学部で教育実習から帰ってきた後等、タイミングを見ながら授業をする予定という。入学時に自己肯定感の低い学生を、主体的・能動的な学生に変えていくというキャリア教育こそが、教育改革の本質であり、それをきちんと記録していくのがTCPである。TCPを活用して、「学生情報の見える化」「自分の目標に向けた継続した学び・活動の支援」「一貫したアカデミック・アドバイジング」の体制を整えることが大学の役割だという。改革に当たって、学内の協力体制等の課題はあまりなかったと柳澤学長は言う。「私が着任したとき、学内の多くが基盤教育改革の必要を認識していたと思います。方向づけの意味で、私や秦副学長のような外部からの力がいくらかはあったと思いますが、実際に改革するパワーは学内にあり、多くの人が、役職を担う等して実践してくれました」(柳澤学長)。岡山理科大の教員歴が20年以上という森副学長は、現場の感覚を次のように話す。「ここ数年、定員割れの問題等、学科だけでは対応しきれない問題が蓄積してきました」。そこへ柳澤学長が他大学から来られて、全学で取り組むという考え方が方向づけられた。最初は学科側に警戒感があったのは事実です。けれど、実際に動き出すと、『これは信じていいな』というような意識が広まった。これまでの学科独自のことだけでは幅が狭すぎる、もっと広く、人間的に優れた学生を育成しなければというところに教員の意識が変わってきていると思います」(森副学長)。柳澤学長が着任1年目に公表した「岡山理科大学ビジョン2026」では、一人ひとりの学生が自分の成長を自分で実感できる教育拠点になっていくことが宣言されている。「学生達が『成長できたな』『大学にいる間に自分の殻を破ることができたな』等の実感を得る体験をさせたい。TCP も基盤教育も、そのためのツールとして学生に提供するものだと思っています」。ここには、岡山理科大のような地方の理系大学は、教育・学生支援で強く特徴を打ち出さなければ生き残れないとの認識もある。しかし柳澤学長は、教職員による学生の指導やサポートの熱心さを高く評価しており、学生に成長実感や自己肯定感を持たせることができる大学への改革は実現できると考えている。「実は、表向きは学長のリーダーシップということになっていますが、4人の副学長と事務局長とで非常にうまく役割分担して、全学的にかなりまとまりができてきました。そういう運営の質を、教育の質、学生支援の質につなげて向上させていくのが、これからのテーマだと思っています」。学科だけでは対応できない課題が蓄積成長実感が得られる教育拠点へ(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)
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