カレッジマネジメント225号
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59リクルート カレッジマネジメント225 / Nov. - Dec. 2020している。Ⅰを完璧にクリアできなければⅡに進めないというほど厳密なものではない。誰にもミスはあるし、処理速度にバラツキもある。あくまで一つの目安に過ぎないが、職員自身がどの段階にいるか自己評価することができるし、上位者が配下の職員それぞれの段階を確認し、成長を促すために何が必要かを考える契機にすることもできる。最終段階に到達している職員はごく限られると思われるが、多くがⅠの段階かそれ以前の段階にとどまる大学もあれば、ⅠからⅤまで広く分布する大学もあるなど、大学間でかなりの開きがあることが推測される。そのことが大学の競争力に大きな影響を及ぼすことを十分に認識しておく必要がある。知識、技能、態度をどのように養い、職務遂行能力の発展を如何に促すかは、極めて難度の高いテーマである。それだけにトップ自らが「職員の成長なしに如何なる改革も実現しない」との強い信念を持ち、息の長い活動として旗を振り続ける必要がある。職員が自らの問題として主体的に取り組む状況を如何につくり出せるかも成否を分ける重要なポイントになる。能力は誰かに開発されるものではない。より高い能力を獲得すべく自らを成長させていくことが大切である。既にその環境が整い、周囲に手本となるべきロールモデルがいれば、上手に後押しすることで主体的に取り組むようになるかもしれないが、そのような職場はむしろ少数と思われる。職員自身が大学で仕事をすることの意味を考え、成長への意欲を高めるように働きかけるとともに、その成長を促す環境を整えることが、今多くの大学に求められている。ワークライフバランスという言葉で考えるならば、人は仕事においても生活においても経験や交流を通して学習を重ねているはずである。そして、生活を通した成長は仕事にも活き、仕事を通した成長は生活にも活き、トータルでより良く生きることにつながる。加えて、大学には教育、研究、社会貢献という使命があり、職員は教員と共にそれを担っていかなければならない。このような対話を重ねることで、大学で仕事をすることの意味を見出させ、自らを成長させる意識を根付かせていく必要がある。最後に、成長を促す環境の整備について、主たる方策を3点挙げておきたい。一つめは、個々の職員の役割と責任、組織としての評価基準を明確にするとともに、日々の業務に「改善」を根付かせることである。自分の役割を理解した上で責任を持って職務を遂行することで成長が促進される。分担がはっきりしていれば仕事も円滑に進み、摩擦も生じない。評価基準が明確であればどう努力すればよいかが分かり、組織への信頼も増す。また、改善の日常化は新たな課題に取り組むゆとりを生み、サービスの質を向上させる。二つめは、実務最前線の責任者である課長に、「部下の成長を促す」「改善を根付かせる」「職場の健全性を保つ」といった責務を明確に課すことである。そのために現職の課長や課長候補者に対する教育を充実させるとともに、部下を率いるライン課長はマネジメント力を重視して登用することを徹底する必要がある。部長と係長の間にいるだけの課長ならポストをなくした方がよい。三つめは、部署を超えた協働や学外との交流の機会を増やし、職員の経験の幅と視野を広げることである。課題解決のためにプロジェクトを編成し、教員・職員や部署・職階・年代の枠を超えた協働の機会を設ける、学内研修を活発化する、学外の研修・セミナーに派遣するといった施策は、日常業務に埋れがちな職員に多くの刺激を与える。職員のキャリア形成にとって大切なロールモデルを他部署や学外で見つけることができるかもしれない。大学が自分たちの成長に心を砕いてくれているとの実感を多くの職員が持つことができれば、その効果は必ず学生や教員にも及ぶ。職員の能力を高め、職員組織を活性化することは、大学改革の最優先課題、まさに一丁目一番地である。職員が自らを成長させる環境を整える成長に心を砕いてくれていると実感できる組織

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