カレッジマネジメント226号
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28リクルート カレッジマネジメント226 / Jan. - Feb. 2021──改革の推進に際してミドルマネジメントが担うべき役割とは、どのようなものでしょうか?従来、マネジャーの役割には、大きく「対人面」「対課題面」の2つがあるとされてきました。「対人面」とは、自グループのメンバーのモチベーションを高めることや円滑な組織運営を行うこと、「対課題面」は、組織全体の目標をもとに自グループの役割と戦術・戦略を練り、メンバーに示し推進することです。これらに加えて「対外活動」、すなわち、自グループの外に出て行って交渉したり、組織間の調整をしたりする役割です。なかでも大事なのが、自らの上司に対する活動で、例えば、課長であれば部長や事業部長、部長であれば事業部長や経営層など、1〜2つ上の上司に対してものを言い、動かすことができるかが、改革の推進役を担ううえでも非常に重要です。組織に変革が求められるとき、経営層は「今が改革の時期だ」といったような大きな話はしますが、具体的に何をどう変えていくかは、現場に近いところの判断に委ねられるもの。その判断や取り組みの中心になるのがミドルマネジメントで、ミドルマネジメントが現場を見ながら今やるべきことを経営層に提案していくわけです。これは、1980年代に経営学者の野中郁次郎さんが提唱されたミドル・アップダウンというマネジメント手法でもあります。──ミドル・アップダウンについて詳しく教えてください。ミドル・アップダウンは、現場からの意見や提案を吸い上げて上に物申していくボトムアップ的な動きと、トップから出た大きな方向性を下に展開していくトップダウン的な動きを、ミドルマネジメントが中心となって行っていく手法です。ある種、トップダウンとボトムアップそれぞれのデメリットを解消するための方法でもあります。──トップダウンとボトムアップ、それぞれのメリット・デメリットは何でしょうか?トップダウンのメリットは、意思決定のスピードが速いこと。また、過去と非連続なことを起こしやすい(表)。デメリットは、トップの判断次第で誤った方向に暴走するリスクがあること。さらに、現場感のないトップの場合、理想を掲げても実行するリソースが現場にない事態も起こり得ます。また、トップが強すぎると現場が指示待ちになる恐れもあります。ボトムアップのメリット・デメリットは、トップダウンの逆です。メリットは、現場感がある、実行の可能性が高い、現場発信の意思決定だから社員のやる気が上がり、指示待ちではなく主体的に考えて実行されること。デメリットは、部門最適になってしまって「全社的に見るとどうなのか?」となるミドルマネジメント層の役割や育成を考えるにあたり、民間企業はモデルの一つとなるだろう。企業におけるミドルマネジメント層の位置づけや期待される役割について、企業組織マネジメントの専門家である、リクルートマネジメントソリューションズ・組織行動研究所所長・古野庸一氏に聞いた。改革の推進者としてのミドルマネジメントの役割ミドル・アップダウンにおける2つの必要条件1987年東京大学工学部卒業後、株式会社リクルートに入社。南カリフォルニア大学でMBA取得。キャリア開発に関する事業開発、NPOキャリアカウンセリング協会設立に参画する一方で、ワークス研究所にてリーダーシップ開発、キャリア開発研究に従事。2009年より現職。著書に『「働く」ことについての本当に大切なこと』(白桃書房)、『「いい会社」とは何か』(講談社現代新書)、『日本型リーダーの研究』(日経ビジネス人文庫)。リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所所長古野庸一氏 現場感を伴った提案ができるミドル・アップダウンの推進役にInterviewインタビュー組織におけるミドルマネジメントの役割とは

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