29リクルート カレッジマネジメント226 / Jan. - Feb. 2021ことがある、意思決定に時間がかかる、非連続な判断には不向き、等です。──ミドル・アップダウンは両者の良い点をとろうとするものなのですね。改めて、メリットは何でしょうか?現場感が分かっていながらも、経営そのものを動かせることです。ミドルマネジメントが経営的な視点を持ち、現場の声を吸い上げて「こういう判断をしたほうがいいですよ」と提案するものなので。従って、ミドル・アップダウンを行うために必要な条件が2つあると考えています。1つ目は、経営に関する情報が、少なくともミドルマネジメントに対しては開示されていること。それらを解釈できていなければ、経営と現場双方の視点を持ち合わせた提案はできませんから。2つ目は、メンバーが経営の方向性を理解したうえで現場の情報や提案を言えるチームマネジメントがなされていること。「経営の大きな方向性はこうだから、現場でできることや、課題・改善点を上げてほしい」「なるほどわかりました」といった会話ができる状態でないと、メンバーからの提案を吸い上げることはできません。──では、ミドル・アップダウンができるミドルマネジメントを育成するために、経営層が重視すべきことは何でしょうか?2つあります。1つは、ミドルマネジメントが経営の視点に立てる情報を得る機会をつくること。例えば、ミドルマネジメントを集めて経営層から経営の方向性を共有し、「自分ならどうするか?」と考えるワークショップを実施している企業があります。すると、いつもは目の前の仕事ばかりを見ていた人が、視点が上がって全社的な意識を持つようになるわけです。もう1つは、横のナレッジシェアができる仕掛けをつくること。マネジメントの課題に対する具体的な答えを持っているのは、経営層ではなく横の組織のミドルマネジメントである可能性が高い。ですから、互いの情報を共有し、ミドルマネジメント同士が学び合う場や仕掛けをつくっている企業は、改革の推進においても、ミドルマネジメントのマネジメント力向上においても強いのです。──ミドルマネジメント自身が経営をわがこと化することも重要だと思います。そのために必要なことは何でしょうか?その課題は企業でもよく聞きます。必要なことは2つで、1つは、「意味づけ」です。その仕事が持つ意味を、経営者は事業部長や部長に、部長は課長に、課長はメンバーに明確に伝える。大学に当てはめるなら、「今の状況を放っておくと本学はつぶれてしまうかもしれない。そうなるとあなたの仕事はなくなる、だからやるのだ」や「こんな大学になったらうれしい」といったことでしょうか。ただ、意味づけだけで当事者意識を大きく引き出すことは難しいため、期待の言葉をかけることも重要です。「このプロジェクトは本学にとって非常に重要で、できるのは○○さんしかいない。ぜひ頑張って頂きたい」等、役割や期待をはっきりと伝える。それにより、ミドルマネジメント層は自らを鼓舞し、当事者意識を持って改革の担い手となってくれることが期待できます。もう1つは、目的や目標に向けて一丸となれるチームをつくること。チームは、メンバーそれぞれの得手・不得手に応じて個々の役割を決め、励まし合いながら目的に向かって頑張るものですから。この2つの取り組みがなく、経営者が言いっ放しになっている組織では、改革はなかなか難しいと思います。──プロジェクトを組み、ミドルマネジメントを参加させるといった取り組みをされている大学もあります。プロジェクトは誰が頑張っているかが見えやすいため、モチベーション高く動ける面があります。改革においても、改革プロジェクトを組んで牽引役にミドルマネジメント層を選び、実行してもらうようにするといいかもしれません。役割や期待、目標が明確ですし、動きやすいと思います。(文/浅田夕香)特集 大学経営を支えるミドルマネジメント表 トップダウン、ボトムアップ、ミドル・アップダウンのメリット・デメリットミドルマネジメント層の育成において重視すべきこと メリットデメリットトップダウン・意思決定のスピードが速い・過去と非連続なことを起こしやすい・トップが暴走するリスクがある・現場感を伴わない決定が起こる可能性ボトムアップ・現場感がある・実行の可能性が高い・社員のやる気が高まる・部門最適になりがち・意思決定に時間がかかる・非連続な判断に不向きミドル・アップダウン・現場感を伴いながら経営を動かす提案ができる
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