カレッジマネジメント226号
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33リクルート カレッジマネジメント226 / Jan. - Feb. 2021していくことも試みながら、職員達がそれぞれ専門型人材として成長するための後押しをする。個の力量形成なくして、組織の力量向上を期待することはできない。キャリア面談についても触れておきたい。職員達の成長にとって、最も大事なのが職場における経験値の向上であることは言うまでもない。ただ、職員の成長の可能性は、個々人の内発的な動機づけがあって花開くという側面もあるはずだ。職員本人が何にやりがいを感じており、キャリアをどのように捉えているのか。半年に一度のペースで、職員本人の手で振り返りのためのキャリアシートを書き、それをもとに上司との面談を行うことになっている。そこで次の課題を設定し、さらなる成長への足掛かりにしてもらいたいと考えている。大学職員の育成に関しては、今ひとつ、組織における推進力の中核を担う人材、即ち幹部をいかに育てるかという点も大きな課題として設定される。そして立命館は、この課題をいかに乗り越えるかについても構想を描き始めている。キーワードは「プロジェクト経験」だ。若いうちに何らかのプロジェクトを担当してもらい、企画から実行までの全てに責任を負ってもらう。「そのなかで、土壇場、修羅場、正念場というものを経験するでしょう。アウェイ経験と言ってもよい。そのような経験を積んでこそ、幹部に必要な資質が磨かれると考えています」(森島理事長)。そしてこのプロジェクト経験の幅を広げるため、越境型人材育成なるものも考え始めていると言う。「企業の経営者を見ても、子会社や別会社で揉まれた経験を持つ人は少なくありません。ラインの中で専門的なことを学ぶのも大事ですが、プロジェクトを担当することで学ぶことがいかに大きいかということです。これまでも学外の機会を活用してきましたが、拡充していきたい。ぜひ、そこで一皮むけてもらいたいのです」と理事長は語気を強める。ほかにも、職員と学生、あるいは職員と教員がタッグを組んで社内ベンチャーを興すことを促進するという話も聞かれた。ミドルがトップと若手の間に生じる距離感を解消するというミドルアップダウンが立命館の強みだという自負もある。たまたま相応しい人がいたというのではなく、次の時代の幹部になるミドルを確実に育てていく。立命館はそのための策を講じつつある。大学行政研究・研修センターの設置から16年。育成型人事制度の導入から6年。2030年に向けて立命館が策定した学園ビジョンR2030もいよいよ動き出す。R2030で設定されている人間像は、「チャレンジ精神に満ちた人間」「社会の変化に対応し、自ら考え、行動する人間」「グローバル・シチズンシップを備えた人間」。このメッセージは、職員にも向けられている。これまでの挑戦にどれほどの手応えを感じているかを尋ねたところ、森島理事長は「職員の基礎力量は、例えば20年前と比較すると、明らかに上昇したとみています。特に効率や正確さといったところでいえば、目を見張るものがある。コンプライアンスについて検討したときも、素晴らしい議論ができました」と述べた。ただ同時に「しかし、次の時代の立命館を牽引できるほどの人材が育っているか、未来の立命館像を語るほどの人材が十分に育っているかと言えば、率直なところ、まだ課題があると思っています」と続けた。理事長が上述の越境型人材育成を強調した背景には、こうした現状認識がある。インタビューの最中、理事長が幾度か「大学職員になる」という表現を用いていたのが印象的だった。立命館では、大学職員として採用され、勤務し始めることが「大学職員になる」のではない。様々な経験を積み、「徐々に大学職員になっていく」のだ。どの組織であっても、完璧な人材育成システムなど持っているわけではない。現状を診断し、少しでもいい方向にと試行錯誤するしかない。その悩ましさは、様々な目標や価値観が混在する大学であれば、なおさら感じるところであろう。試行錯誤の最前線に立っている立命館から学ぶことは極めて多いように思われた。(濱中淳子 早稲田大学)特集 大学経営を支えるミドルマネジメント幹部養成のためのプロジェクト経験手応えの先に見えてきた課題

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