カレッジマネジメント227号
10/50

10リクルート カレッジマネジメント227 / Mar. - Apr. 20212020年度後期が終盤にさしかかった年末から新年にかけて、新型コロナウイルス感染症拡大の第3波が日本を襲い、大学も学生も再びその波に翻弄された。成人式は延期や中止となり、やっと対面と遠隔のハイブリッド授業による学生生活に慣れてきたところで、活動制限と自粛生活を求められた。昨春からのコロナ禍で、アルバイトの中断、留学の中止、課外活動の制限、志望企業の採用停止、親の失職等により将来設計の変更を余儀なくされた学生をはじめ、感染やその疑いによる差別や中傷、家庭内暴力等の被害に遭い、深刻な心の傷(トラウマ)を負った学生は数知れない。また、特別なトラウマがなくても、全ての学生は「本来あるはずだったキャンパスライフの喪失」という体験の渦中にあるという現実を、私達はしっかりと受け止めておく必要がある。コロナ禍は、歴史に残る大規模自然災害の一つとして、今後長期にわたって学生の心に影響を及ぼし続けるだろう。ただ、震災などの場合と異なるのは、被害が外から見えにくく、徐々に、一人ひとり異なる形で喪失を体験しているため、共通理解が難しいことである。コロナ禍の1年目、大学は正課授業をできるだけ質を落とさず学生に提供することに全力を注ぎ、急速に遠隔授業が隅々まで浸透した。その結果、遠距離通学の学生は地理的制約から解放され、その時間を学習に費やすことが可能になっただけでなく、心身の事情を抱えて教室で学ぶことが困難だった一部の学生にとっても、学習機会の増大をもたらした。何より、一人でPC画面に向かう学習環境は、大教室とは異なり、多くの学生に内省的に思考する時間を存分に与えただろう。自分は何のためにこうしているのか、なぜこんな目に遭うのか、何を手がかりに自分のふるまいを決めたらよいか、といった自問自答に迫られたのである。前期中の様々な調査から、遠隔授業実施下で自粛生活する学生のうち無視できない割合がうつ状態や孤独感・孤立感を抱え、後期の休退学を考えているという結果が注目され、メディアにも取り上げられたことは記憶に新しい。自問自答の行き着く先は、授業料返還要求運動のような外向きの反応を一方の極とすると、反対の極は自責や意欲喪失である。これらの調査結果は、一面的解釈に飛びつくことは避けるとしても、「大学教育とは何なのか」という問いを私達が再考する契機となった。9月15日に発出された「大学等における本年度後期等の授業の実施と新型コロナウイルス感染症の感染防止対策について(周知)」において、文部科学省は、遠隔授業実施のみでなく、豊かな人間性の涵養のために対面の人的交流が重要であること、心の悩みや不安を抱えた学生を積極的に把握し、専門家と連携してケアに当たる必要寄 稿甲南大学教授・日本学生相談学会理事長高石恭子臨床心理士、大学カウンセラー、公認心理師。京都大学博士(教育学)。平成元年より学生相談に従事。乳幼児から青年期に至る子どもと親の関係や子育て支援の研究も行う。近著に「自我体験とは何か」(創元社、2020年)他。「キャンパスライフの喪失」という体験コロナ禍が突きつけた「大学教育とは何か」の問い「『偶然』の排除」がもたらす学生の心の成長への影響コロナ禍が学生の心理面に与える影響

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る